赤旗まつり出演は3回目。会場のあちこちから届く「美保ちゃん!」の声援に励まされる、と楽しそうです。
「赤旗まつりは、野外なので開放的で、舞台から空がとてもきれいに見えるんですよ」
フランス国立ロマン・ビル音楽院でクラシックを学び、ジャズ、シャンソンなども手がける注目のサクソフォン奏者。演奏会で全国を飛び回ります。
「前回(2006年)と違うのは、東日本大震災を経験したということです。東北への慰問公演の中で生まれた『みちのく憧憬(しょうけい)』を演奏します」
「みちのく憧憬」は、岩手、宮城、福島の民謡を集めて構成したオリジナル作品。現代音楽の特殊奏法を駆使して鳥の声や波の音を表現し、人と自然が共存していることの臨場感を出します。
中川さんは、震災から2カ月がたったころ、慰問公演で避難所を訪れました。「その時のことはあまり覚えていないんです」
体育館の舞台に立って会場を見渡すと、段ボールで細かく仕切られ、避難している人の姿は見えませんでした。静まりかえり、聞こえるのはテレビの音だけ。
「気配はするけれど、お顔が見えない。“今、私が音を出すとお邪魔では?”という思いがありました」
目に映る状況に戸惑いながら、遠慮がちに日本の歌を演奏。15分後、急いで立ち去ろうとすると、段ボールの向こうから拍手と「ありがとう」の声が響きました。
「一生忘れないと思います。この先も支援活動を続けようと決めた瞬間でしたね」
「愛と平和」をテーマに音楽活動を続ける中川さんが、よく演奏するのが、沖縄戦の悲劇を描いた「さとうきび畑」。歌詞を心の中でたどりながら吹く息遣いは、メロディーだけで言葉を伝えてくれるようです。昨春にはアルバム制作の取材で沖縄を訪問。現地の人の思いを感じて、それを音色に込めました。
野外ステージでも、日ごろのコンサートの雰囲気を味わってほしいと、クラシックの名曲や人気のある歌謡曲「港が見える丘」「長崎の鐘」を演奏します。「みなさんの気持ちが立ち上がるのに私の音楽がきっかけになればと思います。全国のみなさんと再会できるのが楽しみ。赤旗まつり、大好きです」
(中村尚代)
(「しんぶん赤旗」2014年9月28日)