中野区の「平和の森公園」の樹木の伐採をめぐって、区と住民との緊張が高まっています。区は公園の再整備計画で約1万7000本もの樹木を伐採する予定で、9日朝には工事開始を心配した住民120人が現場に駆けつけ、工事強行に抗議しました。
朝7時。底冷えする中、ダンプカーや大型クレーン車などが出入りする工事車両用ゲート前には、不安げな表情を浮かべる大勢の住民が集まっていました。「平和の森公園の緑と広場を守ろう」と書かれた横断幕を掲げています。
声聞かぬ区政に
この人垣の中に、「緑とひろばの平和の森公園を守る会」の根岸志のぶさん(70)の姿もありました。「森は泣いている」のプラカードを高く、しっかり掲げています。
同会の事務局で活動を支えていますが昨年11月、病気で入院。幸い症状は軽く、退院後間もなく活動に復帰しました。根岸さんは「樹木の伐採に限らず、住民の声を聞かない区政は許せません」ときっぱり。
会メンバーには2年半に渡る活動で体調不良などを抱える60、70代の人も少なくありません。しかし公園を守ろうと頑張る人たちの姿に励まされる若い人たちも多くいます。
「子育て世代がなにもしないのは恥ずかしい」と活動に参加し、この日も公園前に駆けつけた若い母親もその一人。「保育園に入れず、児童館がなくなり、公園はますます大切な子育ての場になっています。木を切るのは一瞬、貴重な環境を将来に残すために(区長も区議会も)いっしょに考えてほしい」と訴えました。
五輪理由に再整備
区の再整備計画は、2020年東京五輪の事前キャンプを誘致するためなどとして、公園敷地内に新しい体育館を建設し、草地広場に周囲300㍍、直線100㍍の全天候型トラック、少年用野球場を拡張して大人もプレーできる野球場を含む多目的広場などの施設を新たに設置するとしています。樹木伐採は、この工事に伴うもの。ほかに、バーベキューサイトの設置も計画されています。費用は当初55億円だったのが、約108億円に膨れ上がっています。
防災・環境に逆行
この計画に対し、住民側は豊かな緑と、だれもが自由に利用できる草地広場がある現在の公園だから、幼児から高齢者まで広く区民の憩いの場となっていると主張。
トラックができればアスリートの使用が優先され、住民は草地広場の利用が制限されると指摘。また、森は温暖化の防止や、防火樹林帯としての機能、豊かな住環境をつくり出しているとして、伐採に強く反対。昨年4月には、「守る会」が約1万1000人分の署名を添えて、計画の見直しを求める要望書を提出しました。
さらに昨年12月、住民監査請求を行いました。請求書では、バーベキューサイトの設置による利用環境の悪化や、公園内の池に生息する絶滅危惧種ミナミメダカの喪失の懸念も反対理由に加えています。
しかし区は、こうした住民の声には応えず、住民監査の結果も待たずに工事を強行。住民に約束していた災害時に公園に避難しやすくするための樹脂製のクリアフェンスの設置もせず、住民のさらなる怒りをかっています。
守る会の杉英夫代表世話人(87)は「木の防災能力は区も認めていることなのに、1万7000本もの樹木を伐採するのは防災施策にも逆行する。地域の9割の人が計画に反対しているのに、区長は区民の声を聞こうとしない。区側には、まったく道理がない。へこたれずに頑張りますよ」と力を込めました。
6月に区長選
中野区の田中大輔区政は、自民(13人)、公明(9人)などが与党として支え、平和の森公園の再整備を区長とともに推進しています。
これに対し日本共産党区議団(6人)は、「緑と広場の平和の森公園を守れ」の立場で論戦。同公園が“オール中野”の運動で開園に至った歴史的経過や、「今のまま残してほしい」という利用者や区民の声をまともに聞かずに計画策定を推し進める、区の姿勢を繰り返しただしてきました。
同公園以外にも哲学堂公園の樹木伐採や東中野駅西口の桜の木伐採など、他の地域でも住民の声を無視して進められる計画が問題になっています。
こうしたなか任期満了に伴う区長選が、6月に控えています。
共産党の来住和行区議団長は「区民の声が反映する区政に変えたいという声が広がり、野党共闘を求める機運は中野区でも強まり、そうした動きも始まっています。ぜひとも共闘の力で新しい区政を実現し、公園の整備計画の見直しに道を開きたい」と話しています。