国民健康保険(国保)の制度が4月から変わります。これまで区市町村が運営を担ってきましたが、都道府県が区市町村と共に国保の事業者となり財政運営の主体を担います。重すぎる国保料(税)負担に「払いたくても払えない」世帯が加入世帯の25%(滞納)にものぼる国保。都民の命と健康を支える制度へ、何が求められているのか―。東京社会保障推進協議会の寺川慎二事務局長に聞きました。
東京では都民4人に1人(約345万人)が加入し、そのほとんどが高齢者や非正規労働者など、所得が低く、医療にかける負担が大きい人たちが占めています。
また保険料(税)に所得などとは関係なく、赤ちゃんから高齢者まで、一律に負担する「均等割」があるため、住民税非課税などの低所得者でも、また人数が多い世帯、とくに子どもが多い多子世帯ほど負担が大きくなる、少子化や子どもの貧困対策に逆行するような構造的な矛盾を持っています。
そのため区市町村は住民の負担を軽くするため、一般会計から国保会計に「法定外繰入」を行ってきました。それでも負担が重いため、払えない世帯が4世帯に1世帯という深刻な状況が続いています。
59円の差し押さえ
先日、日本共産党の倉林明子参院議員が予算委員会で取り上げてくれた、わずか59円の銀行残高が差し押さえられた問題は、武蔵村山市の方です。地元の「生活と健康を守る会」に寄せられた相談がきっかけでした。
別の事例で男性は70歳で、病気の妻と引きこもりの息子の3人家族。収入は派遣で働く男性の月17万円のみ。家賃6万9000円、医療費1万円、月額2万円超の国保料が払えず滞納となり、給与を差し押さえられたというものです。
倉林議員が追及してくれたように、差し押さえの根拠法である国税徴収法では、差し押さえ金額の限度は本人10万円、家族一人につき4万5000円を除いた額なので、少なくとも生活に最低限必要な19万円を差し押さえるのは違法なわけです。
安倍晋三首相から「各市町村に周知を図りたい」、加藤勝信厚労相からは、「生活を困窮させる恐れがあるときは、差し押さえの対象外にすることなどが大事だ」との答弁を引き出し、国保の職員にも、このことを周知させることも約束したことは貴重な前進です。
社保協が先月行った「税・国保滞納・差し押さえホットライン」に相談を寄せた枚方市(大阪府)の女性は、給与30万円全額を差し押さえられたのですが、地元の社保協とともに国会の論戦を示して市役所と掛け合い、返金させる成果も生まれています。
「滞納ありがとう」野洲市に学べ
先月、滋賀県の野洲市を訪ねてきました。この市には市独自の条例で通称「滞納ありがとうございました条例」というのがあって、税や国民健康保険料の滞納を住民の生活困窮の最初のサインととらえています。生活を再建することを第一に考えて、市の各部署が横断的に連携して市民を支援しています。
市との懇談は2時間にわたり、前段は山仲善彰市長も出席されましたが、「温情行政ではない。合理的なんだ」とおっしゃっていました。差し押さえても、その時は収納率はあがるが、滞納はなくならない、生活が再建できれば税収も安定し、市役所の信頼も高まるというんですね。
実際、引きこもりの家族がいれば、パートから始めてフルタイムで働けるように就業支援をしたり、家族介護でフルタイムで働けない人には、介護サービスを工夫してフルタイムで働けるように支援するなど、部署を超えたきめ細かい対応になっていて驚きました。
東京で武蔵村山市のような、59円という差し押さえとして意味もなく、違法ともいえる差し押さえが横行する背景には、国税徴収法を現場職員に周知されていないことや、差し押さえの実績に応じて都が交付金を出すなど、差し押さえを奨励する都の指導があります(別項)。野洲市とは正反対、その場しのぎの対応です。
違法な差し押さえ許さない
4月からの制度変更に向けて、収納率をあげようと、さらに過酷な差し押さえが増えるのではと心配しています。国会論戦の成果も生かして、不法な差し押さえを許さない運動が重要です。
東京都は来年度の区市町村の国保料を算定するもとになる標準保険料率で、区市町村の一般会計からの繰り入れをゼロとして示しましたが、そうなれば大幅負担増は避けられません。一方で私たち都民運動と議会論戦で、都は当初やらないと言っていた負担軽減に向けた補助を、来年度14億円を盛り込みました。しかし6年間の激変緩和措置で、しかも予算額はあまりに少ない。
市区町村の繰り入れの維持・増額とともに、少なくとも住民税非課税者などの低所得者や子どもにかかる均等割分の国保料(税)の軽減など、都に支援の拡充を求めていきたい。これから始まる予算議会の論戦も注目しています。国保制度が真に国民の命と健康を守る制度になるよう、力を合わせて頑張りたい。
(聞き手・長沢宏幸)
都が差し押さえを奨励
東京で国保料(税)を滞納している世帯は23区で29・8%、26市で15・9%、東京全体で25・7%、差し押さえは23区で9014件、26市で12万384件(2014年度)にのぼっています。
共産党都議団によると、調査した都内53の区市町のうち給与、年金が振り込まれる口座と知っていても預金の差し押さえをしているのは38区市町に上っています。そのうち最低生活費を残さず差し押さえを行っているところも27ありました。
“国保特別調整交付金”は国保に加入している被保険者数に応じて4段階に分かれています。10万人以上国保に加入している自治体は、100件以上新規差し押さえをすれば1000万円、300件以上すれば2000万円、五百件以上で4000万円の交付金を出しています。
2015年度の差し押さえ件数に応じた交付額は8億2500万円、差し押さえ割合に応じた交付額は1億3500万円、被保険者資格証明書の発行割合に応じた交付額は9430万円。