東京都が築地市場(中央区)の移転先とする豊洲新市場(江東区、東京ガス工場跡地)の開場予定日(10月11日)まで4カ月となりましたが、混迷は深まるばかりです。
土壌汚染問題、施設の欠陥と使い勝手の悪さの問題、場外施設計画の難航と、深刻な問題が何一つ解決しておらず、市場業者の合意と納得も得られていません。
築地で働く業者からは「移転なんてできるわけがない」「築地市場の再整備を」との声が上がっています。(細川豊史記者、東京都・川井亮記者)
都が4月に発表した豊洲新市場の地下水調査(昨年11月~今年2月)結果では、依然として、最高で環境基準の130倍もの発がん性物質ベンゼンなどを検出しました。地下の土壌に、ガス工場操業由来の有害物質がいまだに残っていることを示すもので、都の土壌汚染対策は失敗しました。
都民や都議会を欺き、本来行うべき施設地下の盛り土も行わなかった東京都。小池百合子知事は都民や市場業者との「完全無害化」「食の安全・安心は守る」の約束をほごにして豊洲新市場の開場を決定したものの、その矛盾が、今噴き出しています。
都は30億円を投じて追加対策工事を行っていますが、どれもが一時しのぎにすぎません。
汚染地下水から揮発した有害物質が施設に浸入するのを防ぐとして、地下空間床面に敷設するコンクリートは、いずれは劣化してひび割れる可能性があります。
汚染地下水の上昇を抑えるための水位目標を達成できず破綻した地下水管理システムの強化として、真空ポンプを増設しています。
しかし、それは工事現場で一時的に使われる手段で、恒常的な設置は想定されていません。
日本環境学会の畑明郎元会長は「地震による液状化で地下の汚染物質が噴き出る恐れがある。真空ポンプも長期的な地下水管理を保障できない。いずれも一時的に臭いものにふたをするようなもの。そもそも豊洲予定地は市場にふさわしくありません」と批判します。
豊洲新市場の施設の欠陥と使い勝手の悪さは致命的に深刻です。
水産卸売場から仲卸売場まで、ターレ(小型輸送車)の移動時間が6倍に・・・。
今月2日に都内で開かれたシンポジウム「築地市場の行方」で、建築エコノミストの森山高至氏がターレの試験走行の動画を紹介すると、会場がどよめきました。
築地では、水産卸売場と仲卸売場が隣接して扇状に配置され、青果の卸・仲卸売場も近接し、すべてが平地にあり、スムーズな物流が実現しています。
一方、豊洲は、水産卸売場棟、仲卸売場棟、青果棟が道路で分断され、立体構造で、物流に時間がかかります。
水産仲卸棟の床の耐荷重が1平方メートル当たり700キロにすぎず、2.5トンフォークリフトが使えないとの声が上がっています。
荷物を効率的に積み降ろせる、トレーラーのウィング車の横開き扉が使えないことも大問題です。
豊洲では後ろ扉の使用を前提とし、これが物流の遅延を招くと懸念されています。
業界団体の要望を受けて都は、別の駐車場での荷降ろしを認めるなど対策を検討していますが、問題は解決しません。
東京中央市場労働組合の中澤誠委員長は「問題山積みで、開場までに間に合わない。再延期しないと大混乱する。移転は無理だとの声が築地では上がっている」と語ります。
交通アクセスの悪さについても、築地市場の業界団体や業者から不満が噴出しています。
銀座に隣接し地下鉄や車でアクセス良好な築地に比べて、買い出しの所要時間が増し、飲食店主からは「仕入れがランチに間に合わない」との声が。
雪や風の影響で、「ゆりかもめ」(東京臨海新交通臨海線)の運休・遅延や、晴海大橋の通行止めも起こります。
豊洲新市場場外の集客施設「千客万来」計画も迷走しています。
都は2016年、公募で、万葉倶楽部(神奈川県小田原市)を事業者に選定。千客万来は、飲食・物販店舗と温泉付き宿泊施設として2019年8月に全面開業する予定でした。
しかし、昨年4月、万葉は都に土壌汚染問題での強い懸念を伝え、進出計画を一時凍結してきました。
さらに、小池知事が同月、豊洲移転後の築地市場を「食のテーマパーク」として再開発する方針を発表したことに、万葉が反発。今年5月には契約解除を示唆しました。
都側は、万葉の「着工を2020年東京五輪後に先送りし、その間は都が『にぎわい創出』を行う」との要求を受け入れました。
小池知事は当初、築地の市場機能を維持すると約束したにもかかわらず、それをほごにしました。
その背景には、万葉側の要求や移転推進派の都議会自民党の圧力があります。
築地市場業者の女性でつくる「築地女将(おかみ)さん会」(山口タイ会長)は3月、水産仲卸業者の緊急アンケートを実施。
回答者の9割が都の土壌汚染対策を「信頼していない」とし、7割が移転を「中止・凍結すべきだ」としました。
今月2日のシンポジウムで山口さんは「豊洲移転はできないと確信した」と語りました。
(2018年6月10日付「しんぶん赤旗」より)