現役機長 高橋拓矢さんに 聞く パイロット泣かせの羽田 都心新ルートでリスク増す

現役機長 高橋拓矢さんに 聞く パイロット泣かせの羽田 都心新ルートでリスク増す
国土交通省は2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、都心を低空で通過する飛行ルートを新たに設定し、羽田空港の離発着便数を増やそうとしています。羽田空港の現状と今後について、民間航空のあらゆる職場で働く46労働組合でつくる航空安全推進連絡会議(航空安全会議)の事務局長で、旅客機の現役機長でもある高橋拓矢さん(51)に話を聞きました。(菅原恵子)

羽田空港は海外の航空会社では超特殊空港に認定されるほど、パイロットにとって目標が取りづらくて着陸が本当に難しいです。一定の訓練を受けた者でないと就航させない程です。最終の進入角度が45度以上あり、一発で曲がれきれなかったらやり直しです。

深夜では騒音と空域の問題で、大型機では通常取られない進入角度を用いた着陸方式がとられています。ここを曲げるのは日本のパイロットは相当練習していますが、外国機は一発では厳しいです。パイロット泣かせと言えます。

直近では、今年4月にタイ航空のボーイング747型ジャンボが、この着陸時に降り過ぎて陸との接近警報が鳴り、重大インシデント(ことば)に認定されて事故調査が行われているくらいです。このアプローチ(進入)をやるだけで事故につながるような事態が起きるほどです。

このような難しいアプローチが設定されるのは、米軍横田空域(下図)を避けて飛行せざるを得ないからです。横田空域は実際には何もない空間ですが、私たちパイロットからするとほぼ入れない、大きな建造物が存在するのと一緒です。羽田に行き来する飛行機が千葉を旋回するのは、横田空域を避けて高度を落として進入するからです。

この春、このようなアプローチの設定は安全上問題があると、航空安全会議では国土交通省に対して緊急に改善要請を行いました。

騒音や落下物の危険は
国土交通省ホームページ上で公表されている新しい飛行空路を見ました。都市部の上を飛ぶこと自体が直ちに危険とまでは言えませんが、副次的な安全の問題が出てくる可能性も否定できません。

騒音の問題は確実に起こります。目黒から品川にかけては最終降下で(上図)、飛行機が一定のパワーで降りても高度が下がるほど騒音は大きくなりますから、一番うるさく感じられるでしょう。騒音を危惧するために飛行機の性能上、無理がかかる急降下が生じる進入方式が採用されるなら本末転倒です。騒音を意識し、安全性に影響が生じることはあってはなりません。

落下物は世界中どこの空港でも同じような確率で起こるものですが、東京都心は人口密集度が違います。高い所から落ちるため重力加速度がかかり、ねじひとつでも相当な威力が生じます。今年春、熊本でエンジンが壊れて、部品が病院にあたった事故がありました。また、部品でなくてもエンジンオイルの漏れなどが地上に到達する可能性があります。水分はある程度の高度があれば蒸発しますが、大量であれば水でも油でも地上に到達し、人に直接影響があります。落下物は遅かれ早かれ絶対に発生しますから、リスクはゼロではないと考えます。

計画では鉄道の主要な駅代々木、渋谷、代官山、目黒、五反田、大井町などの真上を通過します。こうした密集地を通過する経路の設定も横田空域があるからに他なりません。

少しでも下の高度が返還されて改善するのなら、話が変わる可能性もありますが、かなりハードルは高いでしょう。横田空域があるために狭いところを行き来しているので、誘導する羽田、成田の管制官の負担は過重です。例えば、小松空港に行くには一回空域の外に出て、一気に高度を稼いでから、これを飛び越えて行きます。

安全が発着増より先
国交省の資料を見る限り、計算だと1時間あたりで10機、6分に1機くらいの離発着が見込まれるとのことですが、あくまで机上の計算です。現場では計算通りにならない可能性があります。

現状、羽田は管制官もある程度の間隔をあけて降下させ、その合間を離陸させるという難しい運用をしています。直線での進入が可能となれば多少なりとも良くなるかもしれませんが、1時間に10離発着も増えるのか疑問です。

多額な税金を投入して、実際運用を始めてみたら1割2割の増加しかない可能性も否定できません。税金を使い、さほどの効果がないのであれば、もっと安全の方に費用をつけて欲しいと希望します。

我々は安全を守る団体ですから、経済効率とか利益最優先での追及はしないものの、税金を使う以上「費用対効果」で見る必要も否めません。国民、利用者の利便性向上になる部分にお金を割いて欲しいというのが率直な感想です。

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