統一地方選 「新区政で公立保育守る」

統一地方選 「新区政で公立保育守る」
中野区 母親「どの子も大切にたい」 強引な民営化の実態訴え
 区長選(6月10日投票)で市民と野党の共同候補としてたたかった酒井直人区長を誕生させた中野区で、新区長を支える区議会をつくろうと母親たちが取り組みを始めています。区長選挙に初めて参加し、公立保育園の共育ちの障害児保育を守ってと声を上げた斎藤歩さん(40)もその一人。切実な願いから政治に関心を持ち、子育てしやすい町をつくろうと頑張ります。(内田惠子)
 
 斎藤さんの息子が通う園が民営化されたのは、5歳のときでした。
 
 準備していた連絡帳(写真)には、お気に入りの熊の人形を抱いた息子の笑顔の写真とともに、「一年間、よろしくお願いします」と書かれています。
 
 新しい担任に知ってほしいと、自閉的な発達障害のある息子の好きなこと、嫌いなことも大きな字で書きました。「大きな音や、見通しの立たないことが苦手」「でも、クマのプーさんが大好き」―斎藤さんは、子どものことを知ってほしいと願ったのです。
 
 ところが民営化へと移行した2カ月後、幼児クラスの担任3人が一斉離職。療育施設で働いた経験を持つパート、看護師などが辞めて、保育は荒れました。
 
 その頃を斎藤さんはこう振り返ります。
 「子どもにいつも囲まれていた保育士の先生たちがいなくなった寂しさで、子どもが“保育園に行きたくない”と言い出し、朝になると泣きました。親も泣きたい思いでした」
 
 斎藤さんが預けていた園では、区が他園より短い1年5カ月前に民営化を発表。父母会が民営化をする条件として定めた引き継ぎ日数も、保育士経験年数も配置人数も満たさないまま、見切り発車で民営化がされました。これまでに例のない乱暴なやり方です。
 
 斎藤さんは、「基準も満たさずに民営化されたのだから、公立に戻してほしい」と話します。
 
 
新区長が改善命令
 中野区の田中大輔前区政は、公立42園のうち既に28園を民営化し、残りも民営化するとしていました。
 
 斎藤さんは区長選で初めて選挙をたたかいました。街頭でマイクを持って、当時進行中の乱暴な民営化による実態を訴え、ポスティングやビラまきにも参加。それまでは、「政治は誰がやっても同じ」と思っていましたが、区政を変えるチャンス、変えたいと強い思いに突き動かされたのです。
 
 選挙後、区長が「公立を一定数残す」と表明。斎藤さんの預ける園でも民間事業者への改善命令が出されました。そこには、「4・5歳児に前月と比較して体重が減少している児童が多数見受けられる」ことや、「けがをした際の対応や引き継ぎに不十分な点がある」など改善命令に到る理由が書かれていました。
 
 斎藤さんは、「民営化でなにが起きたか、なぜそうなったかの検証を区と区議会に求めています。検証抜きに、今後の民営化を進められない」と訴えます。
 
 11月30日の区議会では共産党の長沢和彦氏が一般質問。長沢さんは、「区の保育士募集では5人の公募に対し120人の応募があった」として、「保育士が安定した職場環境を求めているのは明らかで、適切な応募事業者のいない仲町保育園の民営化を中止し、区立で建て替えるべき」と求めました。
 
 酒井区長が仲町保育園、大和東保育園の事業者公募の取りやめを打ち出そうとしたとき、区議会の自民党が反発して再公募を進めた経緯があります。
 
 保育園民営化を審議する子ども文教委員会の広川まさのり区議(共産党)は、「区は区立保育園の民営化をきっぱり中止して行政としての責任を発揮し、主体的に待機児童解消と保育士の処遇改善に取り組むべきです」と話しています。
 
 
失敗しても挑戦し
 公立保育園時代の保育を斎藤さんに聞きました。すると、1歳児クラスの担任の強い勧めで、発達相談に行ったことや、その後もなかなか障害を認められないとき、保育士がフォローしてくれたと斎藤さん。
 
 ある日、信頼していた保育士が、「自分もわが子を怒ってばかりだった。子どもの本心が分かるようになると、“ああしてみよう、こうしてみよう”とアイディアが浮かぶようになるけれど、それまでは私も悩みましたよ」とざっくばらんに話してくれたのだと、斎藤さんは痛む心の内を打ち明けました。
 
 「失敗してもチャレンジすることを教えてくれた先生に出会えたから、私も中野の子どもたちのためにがんばれる」と話す斎藤さん。民営化の見直しを求める保護者仲間とともに、区長選で共同した区長与党の議席を統一地方選で増やすために働き掛けを続けていこうとしています。
 
 
長く勤めるから信頼が 公立保育園元保育士 工藤貴子さん
 障害児保育は現場の受け入れに始まり障害児保育事業運営要綱(99年)を策定して職員配置基準を定めて今日に至ります。集団で話し合いをして、みんなで保育する中で障害児も健常児もどの子も大切にする中野の保育が培われていきました。長く勤められる公立だからこそ、経験を蓄積し、父母との信頼関係もつくることができたと自負しています。
 
 区長選挙では「区民の声中野」に参加して、投票に行こう、区政をなんとかしようと子育て中のおかあさんたちが頑張って、区長交代を実現させることができました。中野区の民営化は区立保育園を仮移転させて事業者に新園舎を建てさせるもので、自治体に課せられている保育の実施責任を投げ出すものです。
 
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