東京都は今年3月に発表した「都立病院新改革実行プラン2018」に基づき、現在8ある都立病院の経営形態について、採算を重視する地方独立行政法人化(独法化)を含め、経営形態のあり方を検討しています。都民からは「採算性の低い公的医療の切り捨てや患者の負担増が広がる」として、直営堅持を求める声が上がっています。都立病院が独法化することで、東京の医療はどうなるのか─。都議会厚生委員会(11月)で、この問題を追及した白石たみお都議(厚生委員)に、これまでの論戦で何が明らかになったのかを聞きました。
都は独法化を検討するのは、東京の医療を支える都立病院に見直すべきさまざまな課題があるからだとしています。しかし、本当に見直さなければならない課題があるのか、私は根本的な疑問を都にぶつけました。
都立病院は小児医療や救急医療などの不採算部門や、がん治療などの高度医療、医療過疎地域である島しょ住民のための地域医療を担うなど、民間の医療機関では採算の確保が困難な医療であっても、行政的医療として位置づけ、都民が医療を安定的に受けられるように、公立病院としてのかけがえのない役割を果たしてきました。
行政的医療に直営は不可欠
ところが都の一般会計から400億円の繰入金があることで、都立病院は「赤字」だとの誤った論調があります。採算重視の独法化を主張する論者の根拠にもなっています
私は都立病院を所管する都の病院経営本部に対し、繰入金は「赤字の穴埋めという認識なのか」とただしました。担当の部長は「行政的医療は非常に採算の確保が困難なものであるということから、この行政的医療を提供するためには不可欠な経費として、地方公営企業法などに基づき、一定のルールを定め、算定を行っている」として、「単なる赤字補?(ほてん)というものではない」と答弁しています。
柔軟な採用は直営でも
独法化の議論は、今の都直営という経営形態では制度的な課題があるということを前提に展開されています。都があげるのは①職員定数と採用が柔軟に対応できない②公務員の兼業は原則禁止なので、他の医療機関との連携など、人材交流に限界がある③予算、契約など「単年度主義」に伴う制約―などです。こうした都の言い分が成り立たないことを明らかにしました。
まず、職員定数の問題です。都は2年に1度の診療報酬改定の発表が2月にあるので、必要な人員を確保するためには、4月の職員定数改定では間に合わないといいます。そこで、年度途中に定数増を要求したことはあるのかと質問したところ、「要求したことはない」との答弁でした。
診療報酬は病院の運営上、踏まえる必要がありますが、職員を配置する上で最も大事なのは、その病院や地域の医療要求に応じて求められる体制を整えることです。そのための医師や看護師をきちんと配置し、充実していくことが都民ニーズに応えることになります。
実行プランでは給与費比率(医療収益に対する給与費の比率)の目標を設定していますが、そのようなことをすれば給与費の抑制、さらには職員の採用などを抑制する方向に働くと考えるのが自然です。必要に応じて職員を確保するというなら、このような目標設定こそ削除すべきです。
職員採用についても、都は速やかな対応は困難と言いますが、病院経営本部が職員採用の権限を都人事委員会から委任されることによって、年度途中でも追加募集が可能となることを明らかにしました。現在、都立病院では17職種のうち11職種が委任されています。
柔軟な職員採用が、直営での経営形態では解決できない課題ではない上に、病院経営本部として柔軟に欠員を確保できるように努力もされているのです。
地域医療貢献のため
公務員の兼業も法律上可能であり、実際に医師の兼業を許可してきたことも分かりました。そもそも地域医療に貢献する方法は兼業以外にも様々あります。
例えば精神科病院である都立松沢病院では、退院患者に対して地域の訪問看護ステーションの看護師と同行訪問することで地域生活を支えています。こうした場合に診療報酬の対象となるのはまれで、収入にはなりません。それでも取り組むのは公立であればこそであり、直営を堅持してこそ、地域医療への貢献を進めることができるという証左です。
制約ならない単年度主義
都のいう予算、契約の年度主義によりどのような制約があるのかをただしました。都は必要な医療機器を購入するための予算が、実際より安かったことで生まれた差額を使って、追加の医療機器などを購入したくても、年度をまたぐ場合はできないことを例としてあげました。
しかし、本当に必要不可欠な機器ならば、結果的に余った予算で買うのではなく、はじめから予算に計上して確実に購入するのが当たり前です。そうしなければむしろ大問題です。
複数年契約については、パソコンなどの保守や電気、冷暖房などの設備保守、コピー機に関する契約、建物管理などについて年度をまたぐ長期継続契約が可能なことを都も認めています。「直営病院の制約だ」などと取り上げること自体、無理があることがはっきりしました。
弱まる住民のチェック
地方独立行政法人は、地方公共団体と切り離され、住民のチェック機能が低下する制度です。例えば住民監査請求権は、独法には行えません。都は評価委員会で運営状況を評価するといいますが、知事が委員を任命するもので十分なチェックになるとは思えません。
論戦全体で明らかになったのは、都が課題だとあげているのは、制度から来る課題などではなく、むしろ直営だからこそ、東京の医療が守られてきた実態です。都は経営形態の検討をきっぱり中止すべきです。
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「都立病院新改革実行プラン2018」 独法を含めた経営形態のメリット、デメリットなどの検証を行い、経営形態のあり方について、計画期間(18~23年度)中に検討するとしています。自己収支比率などの数値目標を定め、収入確保や経費削減を進めるとしています。同プランは東京都病院経営本部のホームページで見ることができます。