大田区 新制度導入で雇止め
地方自治体の非常勤・臨時職員の処遇改善を目指すとして成立した新制度「会計年度職員任用制度」が、2020年4月からスタートします。地方公務員法、地方自治法の改正で、非常勤への期末手当支給を可能にしたものですが、一方で多くの自治体が再度任用の上限回数を4回とし、低賃金の改善は見送られています。大田区では15年間、保育園の遅番・延長番の非常勤として働く伊藤信子さん(公共一般労働組合大田支部長)が新制度で雇い止めを通告され、雇用継続が焦点です。 (内田惠子)
労組 抜本的な処遇改善を
伊藤さんの出勤は午後4時半。出勤までに3時間、地域の商店で事務をしての出勤です。
「園庭で子どもが遊んでいるときには、子どもたちが飛んできて、ギュッとハグしてくれるのが励み」という伊藤さん。6時15分までの遅番保育と7時半までの延長保育に正規の保育士とともに当たります。
正規の保育士は当番で、日替わりで交代する一方、少なくとも同一園で5年間、継続して働ける伊藤さんは、保護者の迎えを待つ子どもの心を受け止める役割を担っています。
「仕事は麦茶づくりに始まり、子どものお世話です。子どもが泣いたり、飲み物や食べ物をこぼしたり、転んだり…。そんなことに一つ一つ対応して15年、働きました。新制度に移行しても、働き続けたい。処遇改善が制度の趣旨ならば働き続けられるのではないでしょうか。私だけのことではないのです。ほかにも同じように苦しむ人がいるはずです」。伊藤さんは雇用の継続を求めています。
ダブルワークで
区側は、伊藤さんが幼稚園教諭資格であって保育士資格がないため、保育士が少ない時間帯の延長保育の当番はできないのだと、2012年の都の規則を持ち出して雇い止めを強行しようとしています。
伊藤さんの報酬は、これまで10万円程でした。そのため、1時から4時まで別の仕事をして暮らしを立ててきたのです。新制度で大田区は5つの勤務パターンを示しています。そのどれもが、伊藤さんの生活に合いません。
同じ働き方をしてきた仲間も月80時間のパターンに移行していった人、退職した人と散り散りになってしまいました。
公共一般労組の松崎真介書記長は言います。
「区は保育にお金をかけたくないのだと思います。伊藤さんの勤務する保育園に新たに保育士資格を持つ会計年度任用職員を1人、配置すれば、都の基準を満たし、伊藤さんも勤め続けられ、正規保育士も、子どもたちも喜ぶのではないでしょうか」
そもそも非常勤制度は、保育園の職員が足らず、早番、遅番の人手確保が困難になったときに、正規職員の労働組合が当局に要求して生まれたものでした。
松崎氏はこうも言います。「必要に応じてできた勤務時間を、当事者との合意もなく廃止し、変更を押し付けてくることは、聞いたことがありません。大田区はこれまで通りの勤務時間を認めるべきです」
程遠い処遇改善
総務省によるこの新制度はそもそも、処遇改善に程遠いものです。報酬について正規職員の給料表を適用し、初任給水準で定めることにより、著しい報酬低下を招くことが指摘されています。
また、制度導入には期末手当の支給など財政負担が伴うことについて、自治体が財政負担を回避しようと、非正規で担われる職を丸ごと委託することも地方では起きており、改正地方自治法には足立区の戸籍窓口委託のような包括的委託を、地方独立行政法人に行わせる内容も含まれています。
非正規職員が全職員数の3分の1を超え、半数に迫る現状のもと、東京では、自治体関連の各労働組合などの働きかけで、すべての区で期末手当が支給されるなど一定程度、会計年度職員任用制度の雇用条件の改善もあります。
会計年度任用職員各自治体の動き
特別区では現在雇用されている非常勤・臨時職員の雇用継続について、多くの区が雇用を引き継ぐとしています。また、会計年度任用職員への移行にあたり、経験の積み重ねを重視し、再度任用の上限を設けない区もあります。
低すぎる初任給について、職務の複雑性、困難性、特殊性、および責任の軽重に応じ、常勤職員の給与との均衡を考慮し、決定するとした特別区もあり、また、初任給について、今後も労使で協議していくとした区もあります。