関係者 撤回、練り直しを
小池百合子知事は「東京都中央卸売市場条例」の「改正」案を開会中の都議会定例会に提案しています。「公正な取引や食の安全・安心を確保する仕組みを維持する一方、取引の活性化を図るための規制緩和を行う」(所信表明)と強調しています。一方、市場関係者からは「公正取引が保たれないばかりか、生産者や都民全体の不利益になる」として、撤回を求める声が出ています。
卸業者のやりたい放題に
「卸売市場の最も大切な役目である適正な価格形成のための規制が取っ払われてしまう。卸売業者のやりたい放題になる」。こう指摘するのは、東京中央市場労働組合の中澤誠委員長です。
市場は生産者のためにも商品をできるだけ高く売りたい卸売業者と、消費者のためにも安く買いたい仲卸業者との取引で価格が決まります。現行の市場条例は、そうした取引が公正・公平に行われるよう、さまざまな規制がかかっています。
その中でも大切なのが、卸売業者の役員や従業員が仲卸業者を兼務することを禁じる規制だと中澤さんはいいます。「卸の経営者が仲卸の経営をしてもいいということになれば、せり取引であっても、売り手の卸と仲卸の看板を掲げた買い手の卸が、裏で手を握り合うということが起こり得る。これでは、信頼される価格形成などできるわけがない。生産者への買いたたきも起きるのではないか」
また、現条例では「開設区域」内での小売に規制を設けていますが、この概念がそもそもなくなり、卸・仲卸業者が市場外に小売店を開くことも可能となります。そうなれば、既存の店より安値で仕入れることが可能な卸・仲卸の店だけが有利となります。中澤さんは「卸や仲卸が寿司店や鮮魚の小売に進出すれば、今でも経営が大変な個人店の多くは、商売を続けられなくなるのではないか。都民の利益のために業務を行っているという卸売市場の趣旨にも反する」と憤ります。
価格操作防ぐ転売規制も撤廃
現条例にある市場にない商品取引の原則禁止や、「委託物品の即日上場」「卸売物品の買受人の明示」など卸売業務への規制は、いずれも卸売市場の取引の公開性を高める重要なものですが、「改正」案では、これらも撤廃されます。
さらに「卸売物品の再上場の禁止」や「自己売買の禁止」「委託手数料以外の報酬の収受の禁止」など、卸売業者が生産物を転売するなどして値をつり上げる価格操作や循環取引などの不公正な取引ができないように、取引方法に網をかける規制も撤廃されます。
条例「改正」案は、国の卸売市場法「改正」を受けたもので、都が設置した「条例改正準備会議」で2018年12月から4回にわたり非公開で議論が進められ、まとめられました。改正案の具体的内容について公開で議論が行われたのは、10月28日の取引業務運営協議会の一回だけでした。
中澤さんは「このままでは、市場の命とも言える価格形成における公正性、公平性、公開性すべてが、論議も尽くされないまま失われてしまいます。例え規制緩和を迫る国の圧力があったとしても、話し合いを重ねて条例で規制を残した札幌市のように、都も必要な規制は残せる。改正案は撤回し、練りなおすべきです」と訴えています。
ことば
中央卸売市場とは 青果や花卉(かき)、水産物、食肉を販売するため、都道府県や人口20万以上の市が卸売市場法に基づき農林水産大臣の認可を得て開設、運営します。市場の卸業者と仲卸業者はせりなどで取引し、仲卸業者は小売商や加工業者など大口消費者に売り渡します。都内には11の中央卸売市場があります。