病院経営本部長も知らず
3日から始まった都議会の定例会では、日本共産党の論戦で小池百合子都政の重大問題が相次いで明らかになっています。都立病院の経営主体を地方独立行政法人(独法)に移す方針を所信表明で突然、公社病院とともに進めると表明したのもその一つ。経営効率を優先する独法化で地域医療や不採算医療の分野が切り捨てられる可能性のある重大問題なのに都民の理解はおろか、庁内でのまともな論議や意思決定もないままの独断だった可能性が浮き彫りになりました。(長沢宏幸)
共産党質問 答弁にどよめき
「(独法化推進の)知事発言の内容を知ったのは(開会日の)本会議の場だ」。病院経営本部の堤雅史本部長が、こう答弁すると、本会議場がどよめきました。都政の重要課題の決定事項について、所管の本部長が事前に知らないまま知事が表明したというのですから、議場がざわつくのも当然です。
この答弁が飛び出したのは、原田あきら都議の代表質問。独法化を進める方針を病院経営本部長が知ったのはいつかとの再質問に、堤本部長がこう答えたのです。
翌11日の本会議一般質問で、知事与党の都民ファーストの会の清水やすこ都議が、「昨日の代表質問において、あたかも今回の(独法化)方針が突然決まったかのような答弁」だったとして、これまでの検討経緯について堤本部長に説明を求めました。本部長は、「答弁で誤解が生じたことは、お詫び申し上げる」と陳謝しました。
しかし、この答弁は「誤解が生じた」ことや「お詫び」が、だれに向けられたものなのか不可解なものでした。共産党都議団は12日、「誤解が生じた」答弁は、どの議員の代表質問に対する、どのような誤解だったのか、知事の方針表明に至る詳細な経緯、方針化を意思決定した日時など、14項目にわたる公開質問状を堤本部長に提出。16日に文書回答がありましたが、質問内容のごく一部しか回答はありませんでした。
繰入400億円「赤字でない」
独法化をめぐる論戦で、重要な答弁がもう一つありました。それは都立病院の独法化を肯定する理由ともされてきた都の一般会計からの400億円の繰入金を巡るものです。都民ファーストの会の政調会長代理や副政調会長はツイッター(短文投稿サイト)で「(都立病院は)毎年400億円の赤字を計上」などと発信し、都民に誤解を広げています。
原田都議の質問に、堤本部長は「行政的医療提供に不可欠な経費。赤字補てんではない」と明言。小池知事は答弁しませんでした。
原田都議は「都の直営こそが最も安定的な経営基盤だ」として独法化方針の撤回を要求しました。一方、都民ファーストの会の小山くにひこ都議は代表質問で「行政的医療の確保や現場の理解といった点に配慮しながら進めていくべき」と推進を表明。自民党、公明党は独法化に理解を示しました。
問題多いソーシャルファーム条例案
小池知事は定例会に「就労支援とソーシャルファームの条例」を提案しています。
「ソーシャルファーム」とは、福祉作業所と一般企業の中間的な「社会的企業」とされ、諸外国では定着し効果もあげていますが、都内はもとより、日本にはまだありません。条例では理念や目的について、就労を希望するすべての都民、中でも様々な理由で困難を抱える人の就労を支援し、総合的施策を実施することを掲げています。
原田都議は「理念や目的は重要であり、賛成」と評価する一方、「ソーシャルファーム」への支援については「いくつもの問題点がある」と指摘。そもそも「ソーシャルファーム」とは何かとの定義がないことや、定義がないために財政支援の認証基準が不明確になることをあげました。
さらに問題だとしたのが、条例を検討した有識者会議で、小池知事が指名して委員になった知事の20年来の友人が、「ソーシャルファーム」を推進する団体の理事長で、条例化を強く主張していたことを指摘しました。来年度の予算要求で新規事業となる「ソーシャルワーム支援事業」に22億円が要求される一方、同じ新規事業である「就労困難者特別支援事業」は、わずか4000万円の要求です。
原田都議は、この友人が関わる「ソーシャルファーム」の事業者に、都が財政支援したり、友人が理事長の団体に業務を委託すること、有識者会議で認証基準を検討するようなことはないと言えるか、とただしました。小池知事はこれには答えませんでした。
羽田新ルート 知事の責任
羽田空港の国際線増便に伴い、首都の超低空を旅客機が飛ぶことになる羽田新飛行ルート計画。品川、渋谷、港各区議会で撤回や見直しを求める決議や意見書が議決されるなど、騒音や落下物、墜落などの危険を心配する住民の声が広がっています。
しかし、国土交通省は来年3月29日から実施を強行する計画です。
原田都議は、羽田新ルートについて「都民の生命、財産にかかわる大問題」なのに、小池知事は国の方針に賛成し、感謝の表明さえしていると指摘。その上で、新ルートは「国交省がお決めになったこと」だと、国にだけ責任を押しつけるのはやめ、「国の新ルート方針に賛成した自身の責任を政治家として明確にすべきだ」と追及しました。
小池知事は「国は自らの判断、責任で決定」「国と協力し、羽田空港の機能強化実現に向けて積極的に取り組んでいく」との従来答弁を繰り返しました。
教育への支援拡充求める 都議会代表質問に原田都議
原田都議は私立高校の授業料の無償化の対象を年収910万円までの拡大と入学金への補助制度の創設を求めました。また、国は「大学無償化」と言いながら、学費値上げが相次ぎ、授業料減免を受けていた学生の半数以上が支援を受けられなくなる問題に関連して、首都大学の学費値下げ、入学料、授業料の減免制度の維持を求めました。
私立高校の授業料減免の対象拡大について、浜佳葉子生活文化局長は「都として今後の対応を検討していく」、首都大学の減免制度について遠藤雅彦・総務局長は、引き続き「適切な制度運用がなされるものと認識している」と、いずれも前向きな答弁をしました。