新型コロナの感染拡大防止対策が呼びかけられていたさなかの、今年3月の都立学校の卒業式で、都教育委員会の指示のもと、すべての学校が「君が代」を斉唱したことが明らかになりました。コロナ禍のもとでも一生に一度の節目を祝おうと、さまざまな対策をとって開かれた卒業式。飛沫感染の心配もあり、校歌斉唱さえなくす学校もあったなか、君が代だけは歌うよう指示を出した都教委の異常な姿勢に、批判の声が上がっています。
斉唱優先、浮き彫りに
都教委は2月28日、都立学校長あてに、卒業式について、「現時点で『国旗掲揚の下に、体育館で実施する』『国歌斉唱を行う』という方針に変更はありません」と通知しました。これを受けて、都の調査で、すべての都立学校が卒業式で君が代を斉唱したことが明らかになりました。
都教委の桐井裕美主任指導主事は、「感染状況が今ほどではなかったもと、参加人数を減らしたり、時間短縮するなど、必要な感染症対策を取るよう各学校に求めた。適切だった」と説明します。
関係者への取材と都の説明によると、都はこの日、国歌斉唱をめぐり2通の事務連絡を出しています。1通目は区市町村教育委と都立学校長、2通目は都立学校長だけに出したものでした。
最初に出した文書は「飛沫感染を防ぐため、国歌を含めすべての式歌の斉唱を行わなかった場合」の例をあげ、「本年度に限り、不適切な状況として取り扱わない」と記述。それが、都立学校長あての2通目では、「国歌斉唱を行う方針に変更はない」となりました。
都教委は、卒業式や入学式での国旗掲揚、国歌斉唱の方法を細かく定めた「10・23通達」(ことば)に基づき、式の実施状況を毎年、調査しています。このため、複数の区市町村が都教委に、「飛沫感染防止のため、国歌を歌わないなどのやりかたをしたら、調査にどう回答すればいいのか」と問い合わせていました。
2通の事務連絡が
これを受けて、都教委は、1通目の通知を区市町村と都立学校に連絡。しかし、これを見て、感染症対策のために「君が代」を歌わなくても良いと受け取った、複数の都立学校から都教委に確認の問合せがあり、2通目が出されました。
関係者によると、都の2通目の通知を受けて、多くの学校で、式の時間を短縮しながら、都教委の指示を実現するため、校歌斉唱や保護者代表式辞、卒業生代表答辞などはなくし、①国歌斉唱②校長式辞③卒業証書授与―などに縮小する対応が取られたといいます。
「歌うなら校歌」
今年の全国の学校の卒業式は、政府による突然の一斉休校で、卒業に向けた、大切な学びの機会が奪われたなかで開かれました。各学校では、コロナ禍のもとでも、子どもたちの一生に一度の節目である卒業式だけは保障したいと、教職員や関係者がさまざまな工夫や対策をとり開催にこぎつけました。
稲城市に住む都立高校3年生の子を持つ母親(44)は、「子どもの高校の校歌は、先輩から後輩に受け継いできた美しいコーラスが特徴です。もしどうしても一曲だけというなら、思い出の詰まった校歌こそ歌わせてあげたい」と話します。
ところが、都は区市町村と都立学校長あてに出した最初の文書でも、「校歌や他の式歌を斉唱しながら国歌斉唱を行わない事例」は不適切と明記。国歌は、できる限り歌わせる姿勢を強く打ち出しています。
先ほどの母親の別の子どもは、今年度、中学1年生で、市立の小学校の卒業式、中学校の入学式に参加しました。そこでも、校歌などは録音を流すだけだったのに、「君が代」は斉唱だったといいます。母親は、「他の保護者も『これだけは歌うのか』『歌って大丈夫なの』と、会場がざわめいた」と話します。
東京の近隣の県のうち、埼玉県は「学習指導要領に基づく対応」を求めるのを前提に、「歌詞つきのCDを流すなどの対応も考えられる」と、各学校に連絡したといいます。神奈川県と千葉県は感染症対策は求めたものの、斉唱について特別の連絡をしていません。
「『日の丸・君が代』不当処分撤回を求める被処分者の会」の近藤徹事務局長は、都教委の今回の対応を、「何が何でも『君が代』だけは歌わせ、生徒・教職員の命と健康よりも、『君が代』斉唱を優先する都教委の異常さが浮き彫りになった」と話しています。
異常な強制、通達撤回を
共産党 斉藤まりこ都議
今年の都立学校の卒業式の参列者は、都教委の方針で、卒業生と教職員、一部の在校生のみに限定され、特別支援学校の介助が必要な卒業生を除き、保護者は参加できませんでした。特に特別支援学校では1人でもいいから保護者の参加をという声があり、私も都議会で、会場は十分に広いことなどを示し求めましたが、感染防止を理由に冷たい答弁でした。
一方で、日の丸君が代だけは強制する都教委は異常です。10・23通達は撤回し、子どもの巣立ちを心から祝える卒業式を取り戻すべきです。
都議会閉会 10日で数十万の検査提案
共産党藤田都議 「無策が感染拡大招いた」
都議会臨時会は7月27日、小池百合子知事が提出した、新型コロナウイルス対策費を盛り込んだ補正予算案(3132億円)を全会一致で可決し、閉会しました。感染拡大が加速し、都の対応が問題となっているのに、知事出席のもとでの審議はまったくありませんでした。共産党都議団が閉会中に知事出席のもとで質疑を行う特別委設置の動議を提出しましたが、立憲・民主クラブ、生活者ネット、自由を守る会の賛成、都民ファーストの会、自民、公明の反対多数で否決されました。
討論に立った日本共産党の藤田りょうこ都議は、補正予算について、賛成はするが「都の独自対策はごくわずかで、いまの深刻な感染拡大に対応する予算になっていない」と指摘。「当面の対策強化とともに、コロナ後の新しい都政も展望して、これまでの税金の使い方を改めること」が必要だとし、大型道路建設など不要不急の事業見直しや、特定目的基金のコロナ対策への最大活用などの検討を求めました。
藤田都議は、6月末から感染拡大が急速に広がっているもとでも「患者数が増加した3月と状況は違う」「医療提供体制は十分確保されている」と言い続けた小池知事について、「都民と事業者に自粛・自己責任を求めるだけで、都として実効性のある具体策を実施してこなかった」と指摘。その結果、感染拡大は止まらず、全国へと波及し、重症化リスクの高い60代以上の陽性者も増えていると強調。「新たな感染拡大を招いた無策の小池知事と国の責任は重大」だと批判しました。
その上で、今やるべきことの第1にPCR検査の抜本的拡充をあげ、「経済活動と感染防止を両立させる道」だと力説。知事が目標とする1日1万件では足りず、国をあげた協力で「10日間に都内で数十万件規模の検査を集中的に行うことが必要」だとし、新たな補正予算の編成を提案。
さらに「感染が広がっている地域と業種を定めた徹底した補償とセットにした休業要請」と「医療提供体制の確保」を求めました。また「子どもたちの学びの保障も切実」として、都として20人程度の少人数学級に踏み出すことや児童虐待、DV(家庭内暴力)被害者への支援拡充を提起しました。