日本体育大学教授 清水雅彦
安倍首相が任期途中に辞任し、後継の自民党総裁に14日、菅義偉官房長官が選ばれました。数々の憲法違反や、政治の私物化を繰り返してきた安倍政権を、日本体育大学の清水雅彦教授(憲法学)に年表とともに振り返ってもらいました。
7年8カ月にわたる第2次~第4次安倍政権は、憲政史上最長の政権となりましたが、本人が言うほどの「成果」を出していません。
「アベノミクス」は大企業と富裕層に利益をもたらしただけですし、朝鮮の拉致問題もロシアとの北方領土問題も解決していません。それどころか、戦後最低最悪の政権だったといえます。数々の反憲法的な悪法制定と政策断行を行い、改憲をあきらめず、立憲主義に反する手法を駆使してきたからです。
まず悪法と政策。取材・報道の自由や知る権利を抑制する秘密保護法(2013年)、プライバシー権を脅かし市民監視と統制を強める共通番号法(2013年)と共謀罪法(2017年)、集団的自衛権の行使を可能とする戦争法(2015年)、長時間労働と過労死を促進しかねない「働き方改革」一括法(2018年)などを制定し、応能分担原則に反する消費税の税率を引き上げました(2014年に8%、2019年に10%)。
次に改憲。安倍首相は2012年の政権発足後すぐに、憲法改正のハードルを下げる「憲法96条改正先行論」を唱えます。しかし、「裏口入学」と批判され改憲が困難とわかると、解釈改憲(2014年の集団的自衛権行使を認める閣議決定)と立法改憲(2015年の戦争法の制定)を行い、4項目で改憲の条文案もまとめました(2018年)。8月28日の辞任表明記者会見でも、やり残したことの一つとして改憲をあげているのです。
「人の支配」へと逆戻り
そして反立憲主義。なんといっても解釈で集団的自衛権の行使を可能にしました(2014年)。国家権力を憲法によって統制し、権力者の勝手な行動を許さないのが立憲主義の考え方ですが、内閣法制局長官やNHK会長に意に沿う人物を送り込み、森友・加計・桜を見る会問題など政治の私物化も見られるようになります。市民革命で「法の支配」を確立したのに、それ以前の封建制社会における「人の支配」に逆戻りしたようなものです。
しかし、安倍政権にも「功績」はあります。「労組と市民と野党の共闘」を生み出したことです。これができたからこそ、改憲は実現しませんでした。ただ、立憲野党が安倍政権に替わる選択肢になることはできませんでした。菅政権が発足しましたが、菅首相は安倍政権の「継承」をうたっています。そうであれば、私たちはこの間の共闘をさらに発展させ、次の衆議院選挙で政権交代を目指さなければいけません。憲法を取り戻すために。