東京都が出資する“株式会社ゆりかもめ”(櫻井務社長・元東京都労働委員会事務局長)で、駅員として勤務していた業務委託先“京王設備サービス株式会社(京王設備)”の元職員が、在職中の精神疾患のり患について12日、三田労働基準監督署(労基署)に労働災害(労災)を申請。同日、所属する京王電鉄新労働組合(京王新労組)と代理人弁護士らが記者会見を行いました。元職員と京王新労組は、京王設備のパワーハラスメントにより発症した精神疾患を労災として認定することなどを求めています。
◇
労災を申請した30代の元職員は2019年に1年の有期雇用で京王設備に入社し、ゆりかもめの駅に時給1000円で勤務し始めました(途中時給増あり)。しかし、7月頃に労働契約書に休日労働の記載がないことについて三田労基署に相談していました。
9月、所属長が「どうしても休日出勤できない日に(勤務表の休日の欄に)捺印するよう」指示。同僚が「全部押したらどうなるか」と尋ねたところ、所属長は「全部押したらバイバイだよね」と解雇・雇止めを示唆しました。このことにより、休日出勤を拒むと解雇・雇止めがあるという話が職場でまん延。元職員は家庭事情もあることから心配になり、親会社の京王電鉄株式会社(京王電鉄)のヘルプライン(相談窓口)に相談しました。
数日後、相談の事実が所属長の知るところになった上に、京王電鉄社員部長らが現場に来訪。「冗談だ」などとごまかす発言をしたために、元職員は不眠や不安感の他、腹痛を発症して受診して「適応障害」との診断を受けて退職したといいます。代理人らはこうした行為をパワーハラスメントに値するなどとして、元職員の受傷は労働災害で手当てされるべきと主張しています。
代理人の加部歩人弁護士は「フルタイムで駅務に就きながら時給1100円、有期雇用という劣悪・不安定な雇用であり、いつでも休日出勤できる状況にしておくということは、安全・安心の運行とそれを支える駅務は成り立たない。社員の相談内容が漏れる相談窓口は役目をなさない」と批判。
また会見に同席した京王新労組の佐々木仁委員長は「京王電鉄グループでは鉄道の他、バス事業においても休日出勤の強要は常態化している。お客様の命をお預かりする身としては放置できない」と力を込めました。
偽装請負を是正指導
ゆりかもめはこれまで駅務は京王設備に委託していながらも、ゆりかもめ社員から駅員に直接指示が恒常的に発生。東京労働局は「平成24年度厚生労働省告示518号労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(偽装請負)に抵触するとして、2019年12月京王設備に、2020年1月ゆりかもめに「文書で是正を指導」しています。実質、駅業務の委託ではなく“駅員の派遣”という構図が明らかであり(東京民報2020年3月8日付)、労働者の安全や健康に対する東京都の姿勢も問われます。
その後、東京民報の取材に京王設備は改善したと回答しましたが、内容は取材でも明らかにしていません。また同社はゆりかもめ同様の第三セクター鉄道である多摩都市モノレールの他、東京臨海高速鉄道、横浜市営地下鉄の駅務も受託しており、京王新労組では「旅客の安全と労働者を守るために、直接雇用と労働条件の改善を引き続き求めていく」としています。
ゆりかもめとは 新橋駅と東京臨海副都心の豊洲を結ぶ高架式の新交通システムで、東京都が0・1%出資する第三セクター鉄道。社員203人の内16人(2020年)は都の派遣職員です。非常勤の取締役に都港湾局長、都建設局長、都交通局長、都港湾臨海開発部長が名を連ねています。