東京五輪・パラリンピックの救急体制として東京都が競技会場に、のべ約3万人の消防職員と消防団員を配置する計画をたてていることが、29日までに、日本共産党東京都議団の調べで分かりました。また都内の各競技会場に少なくとも2台ずつ救急車を配置するとしています。新型コロナウイルスの感染拡大のなか、救急搬送を担当してきた消防職員らの負担が、いっそう増すことが懸念されます。(丹田智之、三浦誠)
救急体制をめぐっては五輪招致委員会(解散)が2013年に国際オリンピック委員会(IOC)に提出した立候補ファイルで、「約6000人の要員を配置」し、消火活動や救急業務などをすると表明していました。ただ現段階の具体的な体制について東京消防庁は、「セキュリティー」を理由に公表していませんでした。
党都議団の調査に対し東京消防庁は、競技会場に大会期間中、のべ約3万人の消防職員と消防団員を配置すると説明。「平均すると1日1000人くらいで、他県からの応援はない」としています。消防職員には救急隊員も含まれます。『東京の消防白書』(20年版)によると、東京消防庁の職員は約1万8700人。消防団員は約2万6700人です。
救急車については都内に24ある競技会場に「観客用1台、選手用1台」を配置し、大きな会場にはさらに配置する予定としています。五輪組織委員会は6月中に観客数を決めるとしており、今後の計画に変更が生じることも想定されます。
東京消防庁は党都議団に、予備や廃棄する予定だった救急車を使う計画で通常の救急体制に影響を与えないと説明しています。
コロナで搬送困難に 五輪で救急隊は負担増か
総務省消防庁の資料によると、東京都の救急隊は274で救急隊員は2640人(2020年4月1日現在)。都内はもともと救急出動の回数が多く、19年は約82万6千件にのぼります。
新型コロナウイルス感染拡大の波が繰り返されるなかで、救急隊員の負担も増えています。消防庁によると、緊急患者の受け入れ先がなかなか決まらない都内の「搬送困難」事例は、今月17日からの1週間で684件。うち新型コロナの感染が疑われるのは、177件でした。
搬送困難とは、医療機関への受け入れ照会が4回以上で、かつ現場滞在時間が30分以上の事例です。昨年4月から1週間あたり400件を下回ったことがありません。ピークは今年1月の第3週で、1500件を超えています。(図参照)
コロナ患者を搬送するためには、救急隊員も防御が欠かせません。救急隊を指揮する救急救命士の男性は「容体が悪化した新型コロナ患者を病院に搬送することもあり、搬送後の救急車内の消毒など業務の量が増えている。隊員が感染しない、感染源にならないように万全な対策をしている。精神的にもハードな面がある」と語ります。
この男性が勤務する都内の消防署の管内には、五輪の競技会場となる施設があります。
競技会場での業務については「まだ具体的な人員体制は決まっておらず、通常の救急搬送に影響が生じない範囲で対応するしかない」としています。
別の消防署に勤める職員の男性は「管内に競技会場が多数あるので、(どう対応するかという)検討を始めている」といいます。
五輪を開催すれば人出が増え、都内だけでなく全国に感染が再び広がることが懸念されています。他県のある自治体の消防幹部は「私たちは自治体消防であり、五輪というイベントのために応援を派遣することなんてありえない。コロナ拡大のなか、日本の誰も五輪で得をしない。得をするのはIOCではないか」といいます。
東京五輪・パラリンピック組織委員会は救急体制について、本紙の取材に「大会延期に伴い、体制については検討中」としています。
都民のコロナ苦理解しているか 星見てい子共産党都議
すでに東京消防庁から五輪組織委員会に消防職員を派遣するなど、五輪開催のために体制が割かれています。IOCのコーツ副会長は、緊急事態宣言下でも五輪を開催できると発言しましたが、コロナで苦しむ都民の状況や現場の苦労を理解しているのでしょうか。都は開催都市としてきっぱり五輪の中止を決断し、新型コロナウイルス対策に集中すべきです。
(2021年5月30日付「しんぶん赤旗」より)