東京都は来年度から、都立高校入試にベネッセコーポレーションの英語スピーキングテストを導入しようとしています。現中学3年生全員が対象のプレテストに向けて、全員の名前や顔写真をベネッセに登録する作業が開始。保護者や教員からは「個人情報を渡したくない」「公平な試験や採点ができない」と反対の声があがっています。(染矢ゆう子)
東京都中学校英語スピーキングテストは、新型コロナによる休校の影響で1年延期になりました。現在の中学2年生が2022年11月に行うテストから、入試の点数に加える予定です。
今年9~11月に公立中学3年生約8万人がプレテストを受ける予定です。全員が顔写真と名前などをベネッセに登録し、ベネッセがIDを発行することが必要になります。
保護者に脅し
保護者に配った文書では、ベネッセは登録した個人情報を22年3月末で抹消するとしています。しかし、過去に2000万人以上の情報漏えいがあった同社に「子どもの顔写真や名前を提出したくない」と話す保護者も。ベネッセは、スピーキングテストに関する文書「個人情報の取扱いについて」で、情報提供に同意しなければ「テスト申込みを承諾しない」「損害は本人が負う」と保護者に脅しを行っています。都教委も「同意しなければテストを受けられない」と入試に加点がなくなると認めており、同意は強制されます。
採点者も不明
採点を誰がやるかも不明です。業務を扱うのは、大学入試共通テストで学生アルバイトが採点することで問題になった、学力評価研究機構というベネッセの協力会社。所在地とされる東京都新宿区内のビルに部屋も電話番号もない“幽霊会社”です。
日本共産党の星見てい子都議の文書質問に対し、都教委はプレテストの採点もフィリピンで行うと回答。「採点拠点を確認する」としていましたが、コロナの影響で現地には行けないままです。都教委の担当者は「公平性や採点がきちんと行われているかを確認した」といいますが、同機構ではなく、ベネッセ社内で、オンラインを使ってフィリピンに確認したのみです。
不公平かつ感染リスク増
都立高校入試で使われるスピーキングテストは、新型コロナの感染拡大防止の観点からも大きな問題があります。
同テストでは、全員がいっせいに大声を出します。プレテストでは感染対策としてマスクをし、クラスの半数ずつ行うことにしていますが、テストの15分間、窓は閉め切られます。
文部科学省が出している衛生管理マニュアルは、「感染症対策を講じてもなお感染のリスクが高い学習活動」として「近距離で一斉に大きな声で話す活動」をあげ、感染レベル3(ステージ3と4の地域)では、こうした学習活動を行わないよう求めています。
東京都では1月以降ずっと3項目超の指標がステージ3超です。対策をしても中止が求められるテストを、リスクの高い密閉空間で強行しようとしているのです。
現場の教員がもっとも懸念するのは、採点の公平性です。都内の公立中学校の教員はいいます。
「生徒のスピーチなどの実技テストを一緒に教えるALT(外国語指導助手)と2人で評価しても、判定はそれぞれで違います。8万人を公平に採点することなどできるはずがありません。公平でない採点で、高校の合否が左右されることはおかしい」
ベネッセは、通信教材の有料オプションとして、オンラインスピーキングを行ったり、その教材を学校や塾に販売したりしています。
「ベネッセがテストをやるなら、対策はベネッセがいいだろうと普通に思います。一企業をもうけさせるテストを入試に使うのは不公平です。大学では中止になった不公平な入試を都が行うのはおかしい。やめるべきです」。東京都目黒区の中学2年の保護者(43)は、こう話します。
学校情報の登録や生徒の登録の確認も中学校の教員が行います。先述の教員はいいます。「事前の準備も中学校に丸投げされ、膨大な事務作業に神経をすり減らします。それだけの労力や時間、お金をかける意味はまったく見いだせない。働き方改革にも逆行します」
公平性確保できない 中止を
日本共産党の星見てい子都議の話 保護者や教育関係者から「試験対策ばかりに関心が向き、英語スピーキング教育がゆがめられる」「塾などで試験対策をした方が有利になり、貧富の格差が入試に影響しやすくなる」「採点の透明性が確保されていない」などの意見を聞いています。「公平性が確保できない」と大学入試改革で導入できない民間試験を活用した入試を、都立高校ですべきでありません。
東京都中学校英語スピーキングテスト 絵を見て質問に答えたり、状況を説明したりする発声の実技テスト。タブレットに音声を録音して行います。配点は検討中です。
(2021年6月12日付「しんぶん赤旗」より)