市の大半が「注視区域」/騒音訴訟事務所も「萎縮が心配」
米空軍と航空自衛隊の司令部が置かれている横田基地の西側に位置する東京都福生市(人口5万6000人余)では、軍用機の爆音に悩まされ、住民は騒音訴訟を起こしてきました。国会最終盤に政府与党が強行成立を狙う土地利用規制法案に不安の声が上がっています。(矢野昌弘)
横田基地のフェンスそばまで、生活道路や住宅地が近接している福生市。土地利用規制法案では、基地などの「重要施設」の周囲約1キロを「注視区域」などに指定できます。
地図で横田基地から周囲1キロを囲んでみると、福生市の大半が「注視区域」の対象になることがわかりました。JR青梅線の拝島駅や福生駅など市の中心部は区域内となります。市役所はかろうじて区域外となっていますが、区域外の場所は市境の多摩川河川敷などが目立ち、市内の主要な土地の多くが区域内となっている印象です。
情報を収集
政府は「注視区域」内の土地・建物の所有者や賃借人などの情報を集めることができ、必要によっては利用状況について報告を求めることもできます。また、「重要施設」の「機能を阻害する行為」や、その「おそれ」がある場合、首相が利用中止の勧告・命令ができるというものです。
福生市の「区域内」には、横田基地騒音公害訴訟を支えてきた事務局の事務所も「注視区域」内に入っていました。新横田基地公害訴訟は第1次が約6000人、第2次は1078人が原告として参加。夜間から朝7時までの離着陸禁止や、過去と将来分の損害賠償などを求めて争い、過去の騒音被害について裁判所は国に賠償を命じました。裁判はどちらも確定しています。
「ここは基地から300メートルの場所。基地に異議申し立てしてきた原告団が、いろんな理由付けで干渉、監視の対象にならないか。第3次訴訟の準備をする中で、住民が原告になるのをためらわないか心配だ」
こう語るのは、第2次訴訟原告団事務局長の奥村博さん(日本共産党昭島市議)です。
とくに横田基地は、米第5空軍司令部と航空自衛隊航空総隊司令部が置かれており、200平方メートル以上の土地取引の届け出を義務づけ、違反すれば刑罰が科される「特別注視区域」にされる懸念もあります。
憲法と真逆
奥村さんは、横田基地や小松基地の騒音訴訟の原告らの個人情報ファイルの情報を民間企業が利活用できるよう防衛省が提案募集を行っていたことに衝撃を受け、ただちに横田訴訟団として防衛省に抗議しました。
奥村さんは「4月の田村智子参院議員の質問で中止に追い込むことができた。個人情報ファイルの問題といい、今回の法案といい、基地周辺での市民監視の動きが強まっていると感じる。市民はオスプレイに恐怖を感じているのに、物言うことを萎縮しないか」といいます。
騒音訴訟に関わってきた吉田健一弁護士(自由法曹団団長)は「裁判所は何度も基地の騒音は違法だと言ってきたのに、それを止めない。違法をやっているのは国と基地、容認しているのも国。その是正を求める住民に刑罰を振りかざしてまで調査するのはおかしい。憲法と真逆な法案だ」と批判します。
(2021年6月16日付「しんぶん赤旗」より)