コロナ禍で危機にひんする文化芸術を支援する文化庁の事業で、交付決定が5割に満たず、必要な支援が行き届いていない実態が明らかになっています。演劇関係者らがまとめたアンケートからは、不採択の理由に「納得できない」という声が多数寄せられるなど、現場の実態と支援がかみ合っていない状況が見えてきました。 (松本美香)
審査体制に不信の声
文化庁は昨年度の第3次補正予算で文化芸術活動の支援事業「ARTS for the future!(AFF)」を開始。補助対象は21年1月8日から同年12月31日に実施する公演や展覧会、映画製作で、2次募集が9月6日~17日に行われました。
すでに終了した1次募集(申請期間4月26日~5月31日)は、当初6月中に審査を終える予定でしたが、約2カ月遅延。8月17日に文化庁が公表した「1次審査終了のお知らせ」によると、申請件数5368件に対し、補助金交付決定件数は2713件(約49.01%)に留まっており、支援が十分に届いていない状況が表面化しました。
その結果を受け、コロナ禍における演劇人支援を目的に議員や行政機関に提言を重ねる「演劇緊急支援プロジェクト」は、不採択団体を対象にアンケートを実施。8月28日までに寄せられた93件の回答と21件の意見をまとめ、2次募集に向けて文化庁と文化芸術振興議連の議員へ提出しました。
昨年に実施された文化芸術活動の継続支援事業は、フリーランスを含む個人事業者にも補助金が渡りましたが、後身となるAFFは法人、もしくは任意団体が対象。さらに「チケット収入などを上げることを前提とした積極的な活動」が支援条件となっており、現場のニーズとのかい離が当初から指摘されていました。
わらをもつかむ思いだったのに
アンケートには、「採否が分からない状態が続き、公演中止の判断を下した」「修正依頼に応じたが、音沙汰なし。どう動けばよいのか途方に暮れている」「プロとして認められないと判断された」など、95%が不採択理由に「納得できない」として、不安や困惑、憤りの声があふれています。
同プロジェクトメンバーのひとり、特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワークの理事長兼事務局長・塚口麻里子氏は、「採択の連絡が遅く、修正依頼に対応しても報告がないまま不採択とされている団体が多数存在する。わらをもつかむ思いで申請した人たちの気持ちをくじけさせた」と指摘。事業収入が経済的に成立するものこそ公演で、プロの活動と捉えているような文化庁の認識に疑問を呈し、「文化芸術基本法に基づき、何が文化振興なのかを今一度考えて制度設計されるべき」と述べました。
一般社団法人日本演出者協会に所属し、演劇製作ユニット「SPIRAL MOON」を主宰する演出家で女優の秋葉舞滝子氏は、「文化庁から積極的な公演を求められ、去年、今年と各団体が血を吐くような思いで活動している。来年、再来年には疲れ果て、活動ができなくなる個人や団体が増えるのではないか」と危惧。11月には自身の公演が予定されており、2次募集で申請を出したものの、不交付の場合は公演を縮小するなど規模が変わってくるとして、「足元がぐらぐらしている状態で本番を迎えなくてはいけない」と不安感をにじませました。
両氏は劇場が廃業に追い込まれている問題にも触れ、AFFのキャンセル料支援事業に関して、柔軟に対応してほしいと訴え。また塚口氏は、バイトをしながら活動している若者は赤字を負うリスクが厳しく、「どれ程恐ろしい気持ちで演劇を続けているのか考えると心配になる」と語りました。
秋葉氏は最後に「自粛が続き、劇場まで足を運ばないことに人々は慣れつつある。はやく平常に戻さなければ、このまま演劇文化が衰退するだろう」と語りました。