日本共産党の山添拓議員は2日の参院予算委員会で、岸田文雄首相が保有を検討するとしている「敵基地攻撃能力」について、憲法や国際法に反する問題を追及しました。
山添 相手国せん滅の打撃力 憲法に反しないか首相 憲法の範囲内に収まらない
「力の論理を否定し、紛争の平和的解決を求めたのが国連憲章であり、憲法9条だ」―。山添氏は、ロシアによるウクライナ侵略のもとで、一部のメディアや政治家から「国連は無力」「憲法9条で国は守れるのか」などの言説があることにふれ、岸田文雄首相の認識をただしました。
その上で、「軍事による対抗に頼ろうとするのは安直な戦前回帰だ」と指摘し、岸田首相が「敵基地攻撃能力の保有検討」と表明したのは「危険な逆行だ」と批判。安倍晋三元首相が昨年11月の講演で「敵基地だけに限定せず、『抑止力』として攻撃力を持つ」と述べたとして、岸田首相が検討しているのも「敵基地だけに限定しない打撃力か」と迫りました。
首相 あらゆる選択肢を排除せず、憲法、国際法の範囲内で議論を行う。
山添 安倍元首相の「相手国をせん滅するような打撃力」の考えは、憲法や国際法に反しないか。
首相 相手国をせん滅する軍事力を持つことは、憲法の観点からも範囲内に収まるものではない。
山添氏は、歴代政府が「専守防衛」を憲法9条と自衛隊の関係を説明する基本としてきたと指摘。『防衛白書』でも「武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使」「憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略」などとしているとして、「専守防衛は、維持するのか」と質問しました。
岸信夫防衛相 防御するのに他に手段がないと認められる場合に限り、基地をたたくことは法的に自衛の範囲内だ。
山添 敵基地攻撃能力は、攻撃を受ける前に打撃する。専守防衛を超えるのでは。
防衛相 わが国に対する武力攻撃は、相手が着手したときに発生と見ている。何をもって「着手」と見るのかは具体的には言えない。
岸氏はこう答弁し、国際法違反の先制攻撃との区別を明確に示すことができませんでした。山添氏は「抑止力は、脅しであり行使することが前提。専守防衛とは相いれない」と批判しました。
山添氏は、2月16日の衆院予算委で岸防衛相が相手国の領空に入り、軍事拠点を爆撃する「海外での空爆」を認めたと厳しく批判。2020年11月13日の衆院安保委で、岸氏自身も「武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領空、領海に派遣する、いわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超える」と述べ、憲法違反との認識を示していたと指摘し、「いつ変わったのか」と追及しました。
防衛相 考え方は変わっていない。
山添 戦闘機で爆撃を可能にするという。これでは憲法の範囲内で議論をすると言ってもその範囲がどんどん拡大している。
追及に対し岸氏は事実上、答弁不能に陥りました。山添氏は「他国の領域に入って爆撃などすれば全面戦争につながる。だから、歴代政権ですら憲法に反するとしてきた」と強調しました。
さらに、日本が敵基地攻撃能力を持てば、日米の役割分担を変えることになるのではないかと追及。「憲法、国際法、日米の基本的な役割分担、いずれも政府の従来の見解すら踏み越え、戦争する自衛隊に変えようとするものにほかならない」と厳しく批判しました。
山添 外交努力尽くすことが 政治の役割首相 外交交渉で緊張緩和が基本
山添氏は、政府が安倍・菅内閣のもとで安保戦略の策定や改変に関わった人たちと意見交換を重ね、折木良一元統合幕僚長らが昨年11月に発表した政策提言は、「専守防衛」の見直しと「非核三原則」の是非を問う議論まで呼びかけているとして、次のようにただしました。
山添 憲法から積極的に逸脱しようという人を有識者として招いている。議事録も資料も公表されていない。秘密裏に進めるのか。
加野幸司内閣官房内閣審議官 議事概要は行政文書として作成し保存している。
山添 国民的に検証可能にするべきだ。開示を求める。
さらに山添氏は、シンクタンク「日本戦略研究フォーラム」が昨年8月に行った台湾周辺で軍事緊張が高まった場合のシミュレーションにふれ、次のようにただしました。
山添 元外務省国際法局長が「こんなシナリオに入ったら勝者は誰もいないということは、非常にはっきりしている」と述べたのはその通りだ。こんなシナリオに入らないために、外交努力を尽くすことが政治の役割だ。
首相 いかなる事態においても、外交交渉を使って緊張を緩和するべく努力する。これが基本だ。
山添氏は、日本が敵基地攻撃能力を持てば、北朝鮮であれ中国であれ、それを上回る軍拡を進め、際限のない軍拡競争になると指摘。東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国では友好協力条約(TAC)を結び、対話と協力の地域をつくる努力を重ねていることを紹介したうえで、ASEANが中心となってつくられた東アジアサミット(EAS)について、首相は重要な会議だと述べたとして、21世紀の国際社会が進むべき道だと強調。ロシアのウクライナ侵略を利用し、力に力で応える道に進んではならないと訴えました。
(「しんぶん赤旗」2022年3月3日付より)