根っこに「商業施設ありき」
ラグビー場、野球場などスポーツ施設が集まり、樹齢100年のイチョウ並木などで映画のロケ地ともなってきた神宮外苑(東京都新宿区・港区)の再開発計画に、市民や団体から、環境と景観を破壊し、スポーツ拠点を奪うものだと声が上がっています。(東京都・山岸学)
再開発計画では、樹木の971本が伐採、70本が移植される見通しです。テニスコートの移設により、絵画館前の芝生広場は多くの樹木が失われます。ラグビー場の移転で建国記念文庫の樹木は半分以上が失われます。
神宮外苑のシンボルのイチョウ並木は樹高17~28メートルで青山口から絵画館前の芝生広場に向かって植えられています。再開発で、途中のラグビー場に向かう18本の兄弟木はすべて伐採され、並木の西側すぐそばに高さ60メートルの巨大なホテル併設野球場が建設されます。また、高さ185メートルと80メートルの超高層ビル(複合棟AB)が新設されます。
■広がる反対
学生野球が長年開催されてきた神宮第二球場が解体されます。明治神宮が「草野球のメッカ」と紹介する軟式野球場もすべて解体されます。ゴルフ練習場やフットサル場など多くのスポーツ施設が失われます。
都主催の都民の意見を聴く会では「イチョウ並木に野球場を食い込ませるような計画は景観の破壊以外何物でもない」「軟式野球場や第二球場はつぶす一方で、ホテル付きの野球場や商業施設はつくる。市民スポーツの場をつぶす計画だ」と批判が相次ぎました。
ユネスコの諮問機関の日本イコモス国内委員会は、神宮外苑の景観を「20世紀初頭の都市美運動が結実したもの」と指摘。4月26日に、都市計画決定された内容を前提に、ラグビー場を現地建て替えにし、テニスコートの移転を取りやめるなどの代案を提案しました。
3月には再開発見直しを求める5万人以上のネット署名が小池百合子知事に届けられ、高校生も独自に署名を集めて都に提出するなど、世論が大きく広がっています。
■突然「ビル」
日本共産党都議団は、2012年の都の資料では、超高層ビルの建設計画はなく、あとから割り込んだものだと告発。商業施設が入る超高層ビルを設置し、「開発事業者などに利益をもたらす方向に変更していった結果、樹木の伐採や景観の破壊など大きな矛盾をはらんだ計画に変わっていった」と強調し、制度の恣意(しい)的な運用であり、計画は都の都市計画にもとづいたもので、都の責任は大きいと指摘しました。
神宮外苑を現地調査した山添拓参院議員は、文科省などから聞き取りを行い「都民に親しまれてきたスポーツ施設や環境を壊す計画をそのままにしていいのか」とただしました。
神宮外苑再開発を考える市民コミュニティー「神宮外苑の緑と空と」 つのいてんこさん
まちづくり 誰のため?
オリンピックが終わり、やっと落ち着くと思っていた昨年末、都の住民説明会でこの再開発計画を知りました。思いもよらない告知に、まさに不意をつかれたものでした。この暴力的な再開発を広く知らせなければと「神宮外苑の緑と空と」を立ち上げ、情報共有をしています。
神宮外苑の歴史的価値を踏みにじる環境破壊、スポーツクラスターと言いながら公益性の高い施設の廃止等々、どこから見ても問題だらけの計画ですが、まずなによりも住民に対して情報公開も説明も不十分であり、責任の所在もはっきりしないまま、一方的に進められていることが最大の問題だと思います。
一体誰のためのまちづくりなのか? 都市計画の根本的な問題が置き去りにされた、利権優先、デベロッパー任せの計画に未来を託すことはできません。
あらためて住民の意見を取り入れた見直しを求めています。
(「しんぶん赤旗」2022年5月2日付より)