全日本年金者組合が中心となり、2015年に44都道府県、39の地方裁判所で原告5297人が国を相手に各地で一斉提訴した年金引き下げ違憲訴訟をめぐり、東京高等裁判所(志田原信三裁判長)は10月28日、東京原告団(507人)の請求をいずれも棄却する判決を下しました。
東京原告団 最高裁上告へ
この訴訟は、2012年に成立した年金制度の改定法に基づく特例水準(物価スライド特例措置による年金額の据え置き)の解消を口実に、国が2013~15年にかけて行った一律2・5%の年金減額について違憲性を主張。憲法13条(幸福追求権)、25条(生存権)、29条(財産権)を侵害し、社会保障の後退を禁止する経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)に違反するとして、年金減額処分の取り消しを求めてきました。
閉廷後、東京原告団と弁護団、全日本年金者組合東京都本部は、即座に抗議声明を発表。判決は年金受給者の切実な訴えに耳を傾けず、国の主張に追随したものと指摘。人権の保障を使命とする裁判所の役割を放棄した不当判決として、最高裁判所に上告する決意を表明しました。
「許しがたい判決」
報告集会で東京原告団長の金子民夫氏は、「とんでもない判決」と怒りをあらわにし、「最高裁に向け、大きな運動に発展させよう」と呼びかけ。弁護団が判決の内容やポイントを解説しました。
控訴審では、原告側が求めた当時の年金局長らの証人申請を却下。本田伊孝弁護士は「労働者の年金に対する不安や、最新の政府統計に基づく年金受給者の生活実態について、年金引き下げによる被害を明らかにした」と控訴審でのたたかいを振り返り、「判決は最も重要な年金受給者ひとりひとりの生活実態に触れることなく、被害について判断していない」と憤りました。
加えて、国会には広範な立法裁量があることを前提に、著しく不合理でない限りは司法判断が及ばないという高裁の判断について指摘。弁護団が判決言い渡し前から予見していた通り、本件と事案が異なる40年前の堀木訴訟最高裁判決を無批判のまま踏襲していると批判しました。
さらに、原告側が違憲性を主張している社会権規約には一切触れず、「憲法25条2項は、社会保障等に関する給付水準の低下を禁止するものではない」とする高裁の判断に言及。「憲法25条2項は社会保障を前進させなければならない規定」であり、「年金受給者に関わる影響にとどまらず、社会保障の給付水準にまで広く網をかけた」と強調。「社会保障を切り下げる局面においても広い立法裁量があることを認め、原則として司法審査の対象にしないと判示した」と声を強めました。
加藤健次弁護士は、「あらゆる社会保障立法について、国が引き下げようが何しようが、裁判所は立ち入らないということを宣言したに等しい」と解釈。「これは許しがたい。40年前の堀木訴訟判決が悪用されていることをただすしかない」と、今後の方針を織り交ぜながら語りました。
報告集会には日本共産党の山添拓、吉良よし子の両参院議員が参加。山添氏は「統一協会問題や国葬、物価高への対応、大軍拡。政府はやるべきことをやらず、やってはいけないことばかりを進めている。一刻もはやく政治を変えよう」とあいさつ。吉良氏は「この国を長年支えてくれた高齢者が安心して暮らせるように、年金は引き下げでなく引き上げるべき」と力を込めました。
同裁判は9月末までに、7事案が最高裁へ上告しています。