東京都教育委員会は昨年11月、多くの都民、専門家、保護者らの反対を無視して、英語スピーキングテスト(ESAT―J=イーサットジェー)を強行しました。受験生や保護者、専門家から公平・公正に問題があったとの声が相次いでいます。一方、都教委はテスト結果を都立高校の入試に活用するとの方針を変えません。都議会超党派でつくる、入試活用の中止を求める議員連盟の副会長でもある日本共産党のアオヤギ有希子都議に、現状と今後の対応について聞きました。
テストは強行されましたが、公平性が担保できないことが明らかになりました。公平・公正ではないテストの結果を都立高校入試に活用すべきではありません。
不公平な状況がアンケートで
議員連盟と都民3団体が実施したアンケートには、試験当日から一週間で478件もの回答が寄せられました。このうち中学3年生からの回答は6割にのぼりました。どれも当日会場に行った受験生や保護者でなければ分からない具体的な記述が特徴です。
寄せられた声は、待機していた部屋で解答する声が聞こえてきた、防音具のイヤーマフ越しに他の受験者の解答音声が聞こえた、録音確認の際に周りの人の声が録音されていたなど、生々しいものです。しかも広範な会場でこうした事例が起きていることが分かりました。
また、「トイレで出題内容の情報が漏れた」「アルバイトの試験官が騒ぐ子どもたちを制止できずに、集中できなかった」など、通常の入試では考えられない状況も寄せられました。このようなテストの結果を、都立高校入試に活用できないことは明らかです。
さらに実際、都教委の見解に反して、中学3年生の学習内容の範囲を超えた問題が出題されました。これでは入試問題として不適切であるとともに、「学習の到達度を測る」という目的からも逸脱しています。
入試への活用そのものが間違い
もともと都教委はスピーキングテストを、都立高校の入試の受験科目に入れようと検討していました。しかし採点に時間がかかりすぎることがネックとなり、学習達成度を測るアチーブメントテストと位置付け、公立中学生全員を対象にして、実施も11月に前倒しすることで押し通しました。
そのため国立、私立中学校からの受験生は受験しなくても良く、その場合は筆記試験の点数の近い他の受験者の点数から換算された点数が付与されます。このことで合計点数が入れ替わり、合否判定に影響がでると専門家は指摘しています。
さらに不登校などの生徒が学校への周知不足で、不受験者の申請ができなかった事例も出ています。また、アチーブメントテストであれば都教委は区市町村教委に強制することはできません。しかし実際は、入試に活用することで事実上の強制になっています。ESAT―Jは、入試としてもアチーブメントテストとしても成り立っていません。
議会と都民が追い詰める
昨年の12月議会では、テストの実施状況の早急な報告を求める都民の声を無視して、都教委は年内の議会での報告を拒否しました。しかし、第1回定例会前の2月9日に、文教委員会で報告・質疑が行われることになりました。保護者や専門家の働きかけもあって超党派でつくられた議員連盟の力で、都教委を追い詰めてきたと言えます。
民間試験や民間事業者の試験活用の問題点は、大学入試改革も含め専門家や都民、国民がずっと指摘してきました。都教委はそれらに耳を傾けずに強行したことが、失敗の最大の要因です。
最初にプレテストが行われた2019年度予算議会の時も、テストを実施するのが民間事業者だということを明らかにせず、その後テストを運営するベネッセと協定を結んだ時も議会に報告はありませんでした。実施の段階になっても「なんで民間なのか」「なんでベネッセなのか」という疑問の声は絶えませんでした。
ベネッセとの協定は、テストと欠席者の追試験、採点までです。都立高校の入試に活用するかどうかは、都教委が判断することができます。不公平があったことを認めて、子どもや保護者、現場教員などに謝罪し、直ちに入試への活用は中止すべきです。
英語スピーキングテスト 受験者一人ひとりに提供されるタブレット端末の画像とイヤホンを通して聞こえる音声によって出題され、マイクに向かって答えます。録音した解答音声をベネッセが提携するフィリピンの会社に送り、1月中旬に結果(スコアレポート)が返却されます。採点は100点満点を6段階(A~F)で評価し、都立高校入試ではAが最高20点、最低がFの0点に4点刻みで換算し、総合得点に加算されます。