岸田内閣は12月に閣議決定した安保関連3文書に、「反撃能力」の名で敵基地攻撃能力を持つことを明記しました。全国の弁護士でつくる自由法曹団の東京支部は、東京選出の衆参全ての国会議員あてに敵基地攻撃能力に関するアンケートを送りました。結果について同支部長で弁護士の、野澤裕昭さんに聞きました。
―アンケートに取り組んだきっかけは。
東京支部は今年、結成50周年を迎えます。秋に記念集会を予定しており、核兵器禁止条約の成立でノーベル平和賞を受賞したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の、川崎哲さんに講演してもらう予定です。
川崎さんの本を読むと、日本政府はアメリカのオバマ政権が核兵器の先制不使用を宣言しようとしたとき、これに反対し、そのためオバマ政権は宣言を断念したことが紹介されていました。先制不使用宣言をすれば抑止力が低下するというのがその理由でした。
敵基地攻撃能力をめぐって、岸田政権は先制攻撃はしないと説明しています。しかし、核兵器の先制不使用宣言に反対する政府が、敵基地攻撃では先制攻撃はしないといっても、どれだけ信頼できるのか大いに疑問です。そこで、アンケートでは敵基地攻撃で先制攻撃はしないという宣言をすることに賛成かどうか問うことにしたのです
全国会議員へとアンケート送付
―結果はどのようなものでしょうか。
東京選出の衆院41人、参院12人の全国会議員にアンケートを送りました。日本共産党の4人の全議員と、れいわ新選組の山本太郎氏、社民党の福島瑞穂氏、立憲民主党の吉田はるみ氏から回答がありました。
回答のあったすべての議員が、「『敵基地攻撃』は先制攻撃にほかならない。憲法違反であり反対」(日本共産党・笠井亮衆院議員)など、敵基地攻撃能力の保有に反対の立場を表明しています。
自民、公明両党の議員からは、まったく回答がありませんでした。アンケートで先制攻撃を否定できないのは、実際はありうるのだということを、示した結果だと思います。
立憲民主党から1人しか回答がなかったことは、残念でした。憲法や民主主義にかかわる大問題で、もっとしっかりと反対の意思を表明してほしかったと感じます。
本質は米軍と共同した攻撃
―改めて敵基地攻撃能力の保有には、どんな問題があるでしょうか。
岸田政権が今回、閣議決定した「国家安全保障戦略」では、敵基地攻撃能力(反撃能力)を、日本が敵国から攻撃を防ぐために「相手の領域において有効な反撃を加えることを可能とする」もの、「スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力」と定めています。
同戦略は、昨年10月発表のアメリカの「国家安全保障戦略」と軌を一にして、中国の対外姿勢への警戒感と対抗姿勢を示しています。敵基地攻撃能力の本質は、台湾有事などの際に、日本が米軍の側に立って中国を攻撃することにあります。
スタンド・オフミサイルは、長距離射程で敵の射程圏外から攻撃できるミサイルです。その一つ、トマホークは中国の北京まで射程に入ります。専守防衛の範囲で自衛隊は合憲という立場をとったとしても、こうした兵器の保有は憲法に反します。
相手からの攻撃を抑止するための能力としていますが、相手が攻撃してくるかどうかの判断は極めて難しく、例えば相手がミサイルを移動したら、攻撃を準備していると判断できるのか。相手からすれば、先制攻撃されたととらえる可能性も十分あります。逆に、相手が攻撃を防ぐために、先制攻撃してくる可能性もあるでしょう。自衛隊の基地のみならず、日本が戦場になります。
敵基地攻撃能力の保有は、絶対にストップさせなくてはいけません。 ロシアのウクライナ侵略をめぐって、一時期、第二次世界大戦前のような、無法な国際社会に戻ってしまうのでは、という論調が強まりました。しかし、日本には戦力の不保持を決めた憲法9条がありますし、2年前核兵器という戦力を持たないし、威嚇にも使わないと決めた核兵器禁止条約が生まれました。この条約には憲法9条2項の戦力不保持の考えに通ずるものがあり国際社会の新たな流れがあります。第二次大戦の前とは、異なる平和の進歩が確かにあるのです。
私たちはそこに展望を持っています。
自由法曹団東京支部から講師を派遣しますので、ぜひ各地で積極的に学習会を開いてください。
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同支部の問合せは03(5227)8255