府中市晴見町の一角、東京農工大学の正門の目の前で、住宅や教育施設が多く集まる地域に、統一協会の創設者、文鮮明を今も信奉する元信者が設立した宗教団体の教会建設が進められています。霊感商法など、さまざまな反社会的行為で多くの被害者を生んできたカルト集団の統一協会。識者が「多数ある『分派』の一つと考えられる」と指摘する団体の施設が地域につくられる危険を知らせようと、2月4日に市民がパレードを予定しています。
2月4日 危険訴える市民パレード
「昨年の8月ごろ、何かの教会がつくられようとしているけれど、なんだろうね、と住民のなかで話題になり始めた」―晴見町の教会建設現場の近くに住む丁弘之さん(府中革新懇事務局長)は話します。ちょうど、安倍晋三元首相の銃撃事件(22年7月)直後で、統一協会などのカルト宗教の危険性が、注目を集めていた時期でした。
工事が進められているのは、東京農工大の敷地のすぐ横。住宅街で、近くには明星学苑や公立の中学、高校もあります。
当時、現場に貼られていた、「建築基準法による確認済」表示板には、「RSS府中教会」と書かれているだけで、実態がわかりません。
府中労働組合総連合(府中労連)の議長で、一級建築士でもある甲田直己(なおき)さんは、相談を受け、市役所を訪れて、建築確認の「計画概要書」の写しを入手します。さらに、土地の登記情報も手に入れました。
そこに書かれていた土地の所有者と建物の建築主は、「霊連世協会会長」を名乗る、足立区を住所とする女性の名前でした。
別の建物の取得も
「霊連世協会」とは何なのか、甲田さんらは、インターネットで調べ、驚くような事実を知ります。霊連世協会は、統一協会の創始者、文鮮明が2009年に明らかにした「霊界と地上界を一つにする」という教義だとして、各地の世界平和統一家庭連合(旧統一協会)の教会のホームページで紹介されていたのです。
住民に心配が広がるのと同時期に、東京農工大の教職員のなかにも、「近くに統一協会に関連する教会ができるらしい」として、心配する声が出始めました。府中労連に加盟する東京農工大の職員組合は、9月2日に「学生が反社会的な活動に巻き込まれることのないように」と注意喚起する声明を発表します。
さらに、霊連世協会の府中市での別の活動も明らかになります。晴見町の市立第一中学校に隣接する一角に、建物を取得したらしいという噂が広がりました。甲田さんが調べると、以前は表具屋だった住居兼店舗を、同じ足立区の女性が取得したことがわかりました。その後、この建物には、居住者もいる様子がうかがわれました。
府中労連が質問状
名称から、統一協会と関係があるとみられるものの、府中市で教会をつくろうとしている「霊連世協会」がどのような団体なのか、不明のままでした。そこで、甲田さんら府中労連は、「教育と研究の環境、安心して住み働ける環境を守るのは労働組合の仕事」と、会長の女性に質問状を出すことを決めます。
統一協会との関係や、団体の趣旨、府中市の教会の利用方法など8項目を尋ねる質問状を11月5日に出し、14日に会長名で回答がありました。
そこには、会長の女性が「10年前に旧統一教会を除名された」ことや、「文鮮明先生の愛の精神と教え」を信奉する思い、そのために文鮮明の唱えた「霊連世協会」の精神や理念を実現するために団体をつくったことなどが書かれていました。
新たな掲示が
晴見町の建設現場では、しばらく工事が止まっていたものの、12月になって、「ここに教会を建てます」「旧統一教会やその関連団体の建物ではございません」などとする、新たな掲示が張り出され、今後、建設が進むとみられます。
カルト宗教に詳しい、キリスト新聞編集長の松谷信司さんは同協会について、「統一協会の『分派』は多数存在し、その一つと考えられる」として、「カルト化した信仰の本質は何も変わっていないと言える」と指摘します(別項)。
要請も市は動かず
府中労連の甲田さんも、「あれだけの被害を出してきた文鮮明の教えを受け継ごうとしている時点で、実態は変わらない、いわば『新型統一協会』以外の何物でもない」と強調します。
丁さんが事務局長を務める府中革新懇は、市長あてに二度にわたり、「市として教会の建設断念と、府中市からの撤退を求めるよう」要請しましたが、市は「対応することは考えていない」としています。
甲田さんらは、市民から「府中に文鮮明を信奉するカルト集団はいらない」と声をあげようと、実行委員会をつくり、市民パレードを2月4日に予定しています(午後2時、栄町中央公園集合)。
カルト化の本質は不変
「キリスト新聞」編集長
松谷信司さんの話
統一協会の「分派」は国内外に多数存在し、「霊連世協会」もその一つと考えられます。またその名称は、統一協会内ですでに「霊界と肉界を連結して実質的な統一を完成し、天理と天道によって摂理を経綸するようになるという意味」として説明されている用語でもあり、この理念・精神を掲げて独立した宗教団体のようです。
会長の女性は、10年前に統一協会から「異端者として除名された」と主張していますが、創設者の文鮮明氏を今も信奉していることは明らかであり、教団本体には批判的な態度を取りながらも、その信仰はおおむね統一原理に基づいており、カルト化した信仰の本質は何も変わっていないと言えるでしょう。