東京都教育委員会が強引に進める都立高校入試への英語スピーキングテスト(ESAT―J=イーサットジェー)の活用問題が、大きな事態に発展しています。9日の都議会文教委員会では、この問題を質疑した都議に対し、威圧的なヤジ(不規則発言)が執拗に繰り返される異常なものとなりました。子どもの進路に関わる大問題として注視していた都民からは、抗議の声があがっています。一般入試(2月21日)直前に心配されていた採点ミス8件が明らかになったことも重大です。
都ファ 伊藤都議に抗議相次ぐ
「許せないハラスメントだ。まともな議論ができないことの裏返しだ」。都立高入試への英語スピーキングテストの活用に反対する保護者らは16日、新宿駅西口でマイクを握り、怒りの声をあげました。
保護者らが憤っているのは、9日から10日未明に及んだ都議会文教委員会でのこと。質問する都議の声が聞き取れないほどのヤジが、執拗に繰り返されたのです。声の主は都民ファーストの会の伊藤ゆう都議。特に問題となったのは、アオヤギ有希子都議(日本共産党)の質問中に「全然わかんねえよ」「何の質問してんだよ」などと繰り返し大声で発言。アオヤギ都議が入江のぶこ委員長(都ファ)に、ヤジの制止を求めたのに、これを無視し、逆に「質問は簡潔に」などと、アオヤギ都議を注意したのです。
伊藤都議は抗議のツイッター(短文投稿サイト)に返信する形で、「質疑者の迷惑になったことについてはお詫びします」などと、ヤジを発したことを認めています。
保護者らが行った街頭宣伝には、約30人が参加。マイクをリレーし、文教委員会の動画を視聴した女性は「まるで学級崩壊、都民として恥ずかしい。正しいことが通る都議会に変えましょう」と呼びかけました。
8人の採点やり直す
英語スピーキングテストは都教委と協定を結んだ民間のベネッセコーポレーションが運営し、昨年11月と12月(予備日試験)に実施。合計で中学3年生約7万1000人が受験し、ベネッセ関連会社がフィリピンで採点しました。
都教委によると受験生への採点結果の通知を終えた1月27日以降、ベネッセ側が再度、全受験生の解答音声を確認したところ、8人の音声の一部で機械音が流れ、解答が録音されていませんでした。タブレットに直接録音されたバックアップ音声で採点をやり直した結果、8人とも当初の採点結果より点数が伸びたとしています。受験生と保護者に知らせたのは、都立高校の一般入試の出願締め切り前日の6日でした。
都教委 ミスの責任者明らかにせず
9日の都議会文教委員会で、日本共産党のとや英津子都議は採点ミスが起きた問題を巡って、責任の所在を追及。滝沢佳宏担当部長は「都教委に責任はある」と繰り返すだけで、誰に責任があるのかは答えませんでした。
とや都議は解答音声データの再確認を誰がどのように行ったのか質問。再確認で経費が生じた場合、都教委とベネッセのどちらが負担するのかとただしました。滝沢担当部長は「新たな追加予算が必要かは決まっていない。(ベネッセとの)協定に基づいて確定していく」と答弁。再確認に至った経緯については、まともに答えませんでした。
また、同テストの受験生や保護者、試験監督らから寄せられている、「イヤーマフをつけても、ほかの受験生が解答する声が聞こえた」などの証言を示し、テストの都立高入試への活用中止を迫りました。
アオヤギ都議は、ベネッセに保管されている受験生の個人情報について、保護者が求めても削除されない問題を指摘。ベネッセの民間試験GTECのシステムと出題形式を使って行ったことを「利益相反だ」と批判しました。
相次ぐ抗議
文教委員会での伊藤都議のヤジを巡って、教育専門家らでつくる「入試改革を考える会」は16日、「都立高校入試へのスピーキング導入の中止を求める会」と同テストに反対する「保護者の会」は20日にそれぞれ記者会見を開き、伊藤都議と入江委員長に抗議し、謝罪を求めたと明らかにしました。
伊藤都議の不規則発言(ヤジ)は、審議妨害で都民の知る権利を侵害し、攻撃的なハラスメントに当たるなどとし、入江委員長は不規則発言を放置し、委員会の秩序を保持する職責に反するなどとしています。
保護者の会はまた、テストの採点にかかわって、採点経過や評価の根拠を開示してほしいという要望書(1月30日)への回答をしない都教委に対して抗議。「入試改革を考える会」は、「音漏れが解答に影響している」という多くの証言に基づき、実証実験や実施状況調査を申し入れたのに対し、都教委から8日の期限を過ぎても回答がないと批判。改めて実証実験等で検証するよう都教委に求めています。