「都市再生」「再開発」の名の下、街が変ぼうをつづけています。注ぎ込まれる巨額の税金―。東京都品川区の武蔵小山駅前では、住民追い出しの巨大開発に、不安、怒り、困惑が広がっています。(芦川章子)
「商店街がなくなるわけだし。さみしいよねぇ…」。武蔵小山商店街パルムの個人商店主は声を落とします。
同商店街は1956年に完成した日本初の大型アーケード街です。全長800メートルに八百屋、喫茶店、本屋などが連なります。都内屈指の人気商店街です。
品川区などが進める再開発計画は、商店街の半分が入る土地に、145メートルのタワーマンションを新たに3棟建てるというもの。区の計画によると、工事着工は2024年度、完成は29年度を予定しています。事業協力者には、三菱地所レジデンス、大林組など大企業が名を連ねます。
現在、再開発準備組合がつくられ、地権者の同意を取り付けようとしています。都市再開発法では、3分の2以上の同意があれば、不同意の地権者がいても計画を強行できます。その場合、商店は新しい再開発ビルに入るか、立ち退くか迫られます。
ある商店主は「ここは一等地。再開発ビルではどこに入るかも分からない。いったん閉店させ、再開するのは早くても6年後。畳む店も多いだろうね」とこぼします。
住民も追い出されようとしています。
予定地に建つ分譲マンションに40年以上住む70代の女性は、説明会の話にあぜんとしました。「計画は決まったこと、マンションは取り壊すので全員出て行って、引っ越し先は自分で決めてという。ここは、ついの住み家。私たちは、どこへ行けというのか」と怒りを抑えられません。
「武蔵小山の再開発から住民と職場を守る会」の佐藤弥二郎代表も、マンションからの立ち退きを迫られています。
19年に完成している隣接地区の再開発のタワマンは、不動産会社のホームページによると2LDKで約1億5000万円。1カ月の管理費は約3万3000円、修繕積立金は約3万円です。固定資産税も増します。
佐藤さんは「年金では到底入れない。3000人の住民が追い出される。これは地上げ。計画は中止すべきです」と憤慨します。
駅前に完成したタワマン1棟の総事業費は約460億円、その22%の101億円が区の補助金です。日本共産党品川区議団の調べによると、再開発で建てられた超高層ビルの棟数は26棟と23区で最多です。再開発に注ぎ込んだ税金も1520億円以上とトップクラスです。
区の都市計画審議会で、この小山3丁目再開発に反対する発言をしたのは日本共産党だけ。17人中14人は、区長が諮問した同計画に賛成しました。
開発に大盤振る舞いする一方、高齢者施設や障害者グループホームの整備率、地域包括支援センターの数、保健師の配置数は、いずれも23区中22位~23位です。
同党の、おくの晋治区議は「ゼネコン、デベロッパーのもうけをつくり出すため、税金から補助金を出して行っているのが再開発です」と批判します。「区は住民の暮らしや生業(なりわい)に心を寄せていない。自治体は誰のためにあるのか。統一地方選挙で問うていきます」
自治体の姿勢で変えられる
NPO法人「区画整理・再開発対策全国連絡会議」事務局長 遠藤哲人さん
税金を注ぎ込んだ大規模開発は全国各地で行われています。NPO法人「区画整理・再開発対策全国連絡会議」の遠藤哲人事務局長に聞きました。◇
国をあげての規制緩和、新自由主義の流れのなか、この20年間で再開発事業も大きく変わっています。
転機は、2002年の“都市再生特別措置法”です。
今日の再開発の内実は、大手不動産会社やゼネコンの「地上げ」事業です。かつて、脅迫、火付け、腕力で行われてきた事業用地確保は、同法とさまざまな法改定で、ごり押しできるようになりました。
「魅力的なまちづくり」「公共の福祉」などといいながら、民間企業の描いた計画通りに動いています。計画の初めから民間企業が張り付いています。行政職員もいいなりです。拙速な手続き、住民追い出しも特徴です。
再開発は高い利益を生みます。行政からは莫大(ばくだい)な補助金まで出る。ゼネコンとデベロッパーが自治体財政を食い物にしています。
再開発ビルは富裕層しか購入できないほど超高額な物件も多く、投機マネーが流れこんでいます。都心の住宅やオフィスビルの過剰供給は問題視されています。将来的な需要見込み、維持管理など、真のまちづくりにとっても“負の遺産”を残すでしょう。
物価高騰のなか、国保料の値上げ、介護保険の軽度のサービスはずしなど、一般市民は「これでもか」というほどに痛めつけられています。「行政からの支援の貧困さ」と「大規模開発には湯水のごとくお金を使っていること」は表裏一体です。
再開発は「駅前がきれいになっていいね」ぐらいに捉えられがちです。しかし、市民の生命や財産を削っておいて、開発財源はしっかりと確保する。こんな行政でいいのかと。
地方分権の下、都市計画の決定権限は、かなりの部分で区市町村に移っています。つまり、自治体の姿勢で大きく変わる。頑張りしだいで、かなりの歯止めになります。
都市空間はみんなのものです。市民の目線から「公共の福祉」の旗を掲げ、どんな都市のあり方が望ましいのか、しっかりと議論することが大切です。
(しんぶん赤旗2023年3月2日付より)