厚生労働省が10日に発表した今年2月の生活保護申請数は1万9321件(速報値)で、前年同月比20・5%増でした。2カ月連続の申請数増で、統計を開始した2012年以降、コロナ禍での緊急事態宣言時の2020年4月の25パーセントに続く2番目と高水準が続いています(表参照)。同省は「新型コロナウイルスの社会経済への影響が長期化している」と分析します。一方、生活保護の利用資格がある人のうちで利用している割合(捕捉率)は2割程度であり、諸外国と比較して極めて少ない傾向にあります。生活保護制度について、黒岩哲彦弁護士に聞きました。
黒岩弁護士に聞く
―生活保護とはどういう制度ですか
黒岩 憲法25条にある健康で文化的な最低限度の生活を実現するものです。生活が苦しくなった理由は問わない、まず生きることを優先しましょうという制度です。
―コロナ禍以降、相談は増えていますか。
黒岩 飲食店などサービス業を中心に雇用が悪化したことを受けて増えているように感じます。30代くらいの若い人でも心が傷ついた人が少なくありません。生きにくい世の中を反映しているのではないでしょうか。
―生活保護を利用できる困窮状況でも「受けたくない」という声を聞きます。
黒岩 相談を受けていても、「生活保護だけは受けたくない」や「恥ずかしい」との声はあります。国民感情もあるのでしょう。日弁連も生活保護法を「生活保障法」に改正しようと提言していますが、「生活保護」という言葉自体が上からの施しのような印象を与えがちです。生活保障制度という方がいいですね。
一時的に生活保護制度を利用して生活を再建することは、真の健康を取り戻すためにも必要です。長期的にみても立ち直りやすいです。
―困窮していてもどうしてよいのかわからないなど、自分が生活保護を利用できると思わない人も少なくありません。
黒岩 インターネットカフェで暮らしていて住まいがない人でも申請できます。その自治体に住民票がなくても大丈夫。持ち家や自動車があっても最初からあきらめることはありません。厚労省もホームページで「認める場合もある」と告知しています。
インターネットでは同省や自治体、日弁連などの公的な機関や生活保護問題対策全国会議(生保問題全国会議)のものが正しい直近の情報です。その他は事実ではないものが見受けられます。「まず相談」と厚労省も述べています。
―一人で自治体窓口に行くのは不安だという人もいると思います。
黒岩 法テラスの他、生保問題全国会議では電話などでも相談を受け付けています。場合によっては弁護士の同行支援も可能ですので、連絡しましょう。自分を責めたり、無理だと決めつける必要はありません。
「水際作戦」として生活保護の申請を拒む事件が各地で起きましたが、厚労省も是正するように対応しています。窓口の応対も柔軟に変化してきています。
また、親族などに「仕送りできませんか」と連絡をする扶養照会は、本人が拒否することもできます。窓口の対応に問題があった時も、ためらわず相談してください。