「市民が育てた緑守って」 葛西臨海水族園 樹木1400本が危機 「市民が育てた緑守って」

 群泳するクロマグロを見ることができるドーナツ型の大水槽などで知られる都立・葛西臨海水族園(江戸川区)は、年間140万人を超える人たちが訪れる都内有数の人気スポットです。ところが緑豊かなこの地でも神宮外苑と同様の樹木の伐採問題が持ち上がっています。地元区民から「30年以上かけて育ててきた樹木を守ってほしい」との声があがっているのです。日本共産党の原純子都議(江戸川区選出)と、同公園で日頃からウオーキングを楽しむ新日本婦人の会江戸川支部の「つばさ班」お散歩小組のメンバーと共に、問題となっているエリアを歩きました。

 入場料を払いゲートをくぐると、太陽の光を反射してキラキラ輝く高さ約30㍍のガラスドームが現れます。館内では2200㌧のドーナツ型の大水槽で群泳するクロマグロや国内最大級の展示場で泳ぎまわるペンギンの姿を見ることができ、水族園最大の見どころです。
 同園にはもう一つの見どころがあります。「水辺の自然」エリアです。自然が豊かだったころの東京周辺の水辺がイメージされ、田んぼや池沼、渓流といったさまざまな水辺環境が再現されています。小川が流れ、豊かな樹木が生い茂り、その間を縫うように遊歩道が続きます。
 ニホンコウノトリやタンチョウの「水辺の鳥」エリアを過ぎると、淡水生物館があります。透明な板を通して池の中を泳ぐ淡水魚やカメ、水草などの生態を目の前で見ることができます。
 「子どもの目線で泳いでいる魚を間近で見ることができるので、子どもたちはみんな夢中で見入っているんですよ」。同園に度々、訪れているという女性が言います。初めて来た女性は「いなかを思い出す。今度、孫を連れてこよう」と話しました。

市民の手で環境を再生
 葛西臨海水族園が建つ湾岸エリアは、高度経済成長期に工場排水や産業廃棄物で汚染地帯でした。
 魚が住めなくなった一帯を再生しようとNPO団体や地元住民による長年の努力が実り、干潟の再生を果たした葛西海浜公園や、木を植え自然環境の回復を成し遂げた葛西臨海公園が開園。今では多様な水辺の生き物が生息し、約170種の野鳥も飛来するまでになっています。
 同じ1989年に開園した葛西臨海水族園は、環境再生のシンボルとも言えるものです。

新施設整備で伐採と解体が
 東京都は施設の老朽化やバリアフリー化を理由に、同じ敷地内に新水族園を整備する計画を進めています(2028年3月開園を予定)。その新施設の建設予定地が淡水生物館のある「水辺の自然」エリアなのです。最大1400本の樹木の伐採が予想され、同館は解体の危機に直面しています。
 お散歩小組の初代会長でもある五味淑子さん(82)は「流れに沿っての展示を見られるのはここぐらい。貴重な場所ですよ。壊すのではなく大事にしてほしい」。他のメンバーも「たかだか30年で、なぜ壊すのか。今ある物を長くいかすSDGsの時代に逆行している」と憤ります。
 葛西臨海水族園まで徒歩で30分ほどの、なぎさニュータウン(江戸川区)に約40年前に越してきた森田綾子さん(80)は、「建設前は、埋め立て地で赤土のガラガラに乾いた土地でしたが、こんなに緑が豊かな場所になった。みんなで育てた緑なんです」。他のメンバーも「移植しても木はダメージを受ける。潮風に耐えてここまで育てたのに、伐採するなんておかしいよね」とうなずきます。
 お散歩小組のメンバーは、1979年に新築したばかりの「なぎさニュータウン」(1324戸)に入居した人たちがほとんど。葛西臨海水族園の建設前から、この地域の時代の移り変わりを見てきたのです。

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