争議解決が安全への要石 123便事故38年 JAL争議団が訴え

 「8月12日、日本航空123便が群馬県上野村山中の御巣鷹の尾根に墜落した事故から38年になりました。航空会社にとって安全がどれほど大切かということを、今一度かみしめながら、なぜ解雇争議の解決が必要なのか訴えます」―JAL不当解撤回争議団などは7日、日本航空本社前で宣伝行動を行い、JAL被解雇者労働組合(JHU)の山崎秀樹書記長の声が響き渡りました。同事故の教訓がJALに薄れつつある現状を考えます。

 日本航空123便墜落事故は、1985年8月12日に羽田空港発伊丹空港行のジャンボ機が群馬県多野郡上野村の山中に墜落し、単独機事故で史上最大の犠牲者520人を出した航空機事故です。事故を経験した社員は今やJAL内にはほとんど居ず、現在の赤坂祐二社長も事故後の入社で当時を知らないといいます。
 山崎書記長は入社当時、JALは他社と比較して事故が多く、現在まで13件の事故により744人の尊い人命が失われてきたと述べ、「安全は絶対に常にあるわけではなく、簡単に得られるものでもない。事故後に原因の究明、再発防止策を徹底的に行い、潜在的な不安要素をひとつひとつ潰していく地道な活動がなくてはならない」と指摘。「一番大切なものは職員の声。職員が声を上げられないと安全は守られない」と強調しました。
 国際的な事故調査員の資格を有する乗員原告団の近村一也団長は、「123便の事故当日、ヨーロッパ路線に乗務するために成田のオペレーションセンターに着くと、ものすごい騒ぎでした。同乗する機長は123便に乗務していた高濱雅己機長と同期で、同機が行方不明だと聞いて心配していました」と切り出しました。
 「経由地のアンカレッジに着くと高木養根社長(当時)の全社員に向けた『平常心を失わないで乗務してください』という内容のメッセージが届いていて、同期が『こんなことが起きて、何が平常心だ』と大きな声を上げました。当時の経営陣の言葉は現場の乗務員の心に響かないものでした」と語りました。

安全よりコスト会社方針が逆流
 123便の事故以降、JALの最高経営会議では初めて絶対安全を謳い、労使関係の安定が強調されたことにより、これまでの所属労働組合による人事差別などが中断される方向に向かったといいます。さらに機長を管理職として扱い、労働組合運動に参加させなかったことも当時の日航乗員組合らの要求に基づいて改善。機長が労働組合運動に参加できるようになり、安全に対して現場の声を上げるようになったことを背景に事故などが激減していきます。
 こうした流れの中で日本航空乗員組合は回収された123便の機体の残骸を破棄するとしていたJALに対して1993年12月以来、団体交渉を通じて保存と公開を要求してきました。事故の遺族らも残存機体の保存を粘り強く求めていました。
 事故から21年後となる2006年には安全啓発センターがオープン。現在は残存機体が、遺品や残存備品などとともに展示されJALの関係職員への安全教育に用いられています。
 しかし、安全重視の流れに逆行が起こります。JALは2010年に会社更生法を申請し事実上の破たん後、京セラの稲盛和夫会長が会長に就任。行ったのは徹底的なコストカットでした。稲盛氏は安全は二の次で、団体交渉の時に会社側は「利益を上げてから安全のことを言ってよ」と安全ポリシーを気にかけることもなく経費削減を指示。当時の機長には「燃料節約のために(危険とされる)積乱雲が予測される場所を迂回をせずに、(揺れても気にせず)突っ込む」と発言した者もいたと言います。

重大事象昨年から相次ぐ
 さらに「安全第一」の声を上げる労働組合員を敵視するような労務政策を復活させ、早期退社などの目標を超過達成させているのにもかかわらず2010年12月31日にパイロット81人、客室乗務員84人を一方的に解雇。現在も争議団に結集し、解決を求めてたたかう人が35人います。
 争議団や支援者からは「解決した人の中でも乗務職に復帰できた人は皆無。これは『運行の安全』に向けて声を上げてきた者への懲罰だと思わざるを得ない」との声も聞こえます。
 今年7月12日には、JAL585便が函館空港で着陸を2回やり直した後に新千歳空港へ向う際に燃料不足の可能性で優先着陸を求め、国交省航空局が重大インシデント(事故が発生する恐れ)」に認定し、同省の運輸安全委員会が事故調査を行うような事態が発生。昨年には乗員および乗客が運行中に重傷を負ったとして3件が航空事故に認定され、事故調査が行われています。
 「路線訓練の頃、教官に乗客数を聞かれて答えたら『違う。その3倍だ。背後にいる御家族の行く末も預かっている』と言われて背筋が寒くなりました」と語る近村団長。争議団では「争議の解決は123便事故の教訓を真剣に生かし、安全第一のJALを取り戻すたたかいである」と全力をあげています。

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