仏政府招聘プログラムで訪問 山添拓参院議員に聞く
❚ 政治分野 男女平等進む
日本共産党の山添拓参院議員は9月18~23日、フランス政府の招きで同国を訪れ、ジェンダー平等、公共交通の二つの分野で、同国政府や地方自治体関係者、市民組織の代表、政治家らと懇談・交流を重ねました。山添氏に話を聞きました。(遠藤誠二)
移動は人権 鉄道事業に企業も負担
―どういういきさつで訪れたのですか?
昨年の暮れにフランス外務省から、同省が行う「将来を担う人材招聘(しょうへい)プログラム」(PIPA)の約300人の候補者から私が選ばれたと連絡がありました。1989年に始まったPIPAは、毎年、世界中から政治家や経済界、学者、市民社会メンバーなど約75人を選抜して1週間ほどフランスに招き、おのおのの希望する分野の関係者との面接をセットし交流するというプログラムです。男女同数で党派は問いません。
―日本では山添さんが選ばれたのですね?
はい。今年はアジアで11人、日本からは私だけと聞きました。PIPAに選ばれた人は私で2167人目、日本人では35人目です。欧州委員会委員長のフォンデアライエン氏や、欧州の国の閣僚もいます。私を選んだのは、弁護士、参院議員で、ジェンダー平等に取り組んでいるからだと説明を受けたほか、日本共産党とはつながりがなかったからとも聞きました。党として注目されたということだと思います。
女性議員5割
―山添さんはどの分野で交流したのですか?
何でも選んでいいということで、ジェンダー平等と公共交通にしました。初日は、外務省訪問後、パリとその周辺部を含む「イル・ド・フランス」という行政組織の、女性の権利と男女共同参画担当セクションの責任者と会いました。ジェンダー主流化の取り組みは「統合的アプローチ」とよばれ、私が訪れた部署は、政府の政策を地方に実行させるため設置されたところです。取り組みの優先順位は(1)女性への暴力(2)雇用(3)女性の健康(4)ジェンダー平等の意識を高めるための行動―という説明を受けました。
「エルオッシ」―「彼女らもまた」と呼ばれる市民組織も訪ねました。カトリック系の団体が母体となって92年に設立され、政治分野での男女平等=パリテをめざす団体です。設立当時はフランスでも女性議員はわずか5%だったそうですが、法律ができて、その後、改正もされ、日本の衆院にあたる国民議会では4割近くに、県議会では5割に達しているところもあります。
例えばある県議会では定数40の小選挙区(1人区)だったのを定数20の2人区にし、政党は必ず男女2人セットの候補者を選ぶこととしました。有権者はそのセットで投票する、これで議員数も男女平等になります。
―日本の現状について説明されましたか?
はい。衆院では女性はたったの10%。岸田政権の新内閣では20人中わずか5人で、副大臣、政務官はゼロと説明したところ、「大変ですね」という反応で、「大事なことは意思だ」と言われ、逆に励まされました。
不平等に罰則
国民議会を訪れ、仏日友好議員連盟のアンニ・ジョヌバー会長らとお会いしたときにも、パリテの話題になりました。フランスでは、候補者を男女平等にしない政党には、ペナルティーとして政党助成金が減額されます。「実例はありますか」と聞くと、ジョヌバー氏が「私の党が罰金を受けた」と苦笑い。彼女が所属するのは保守政党で、長年活動してきた男性候補を出さざるをえなかったと理由を説明していました。ただ、保守でもパリテは必要だという姿勢でいることを感じました。
―日本人にとっても、大変、興味ある話です。
「女性と家族の権利に関する情報センター全国連盟(FNCDIFF)」とよばれる、50年前に国が設立した機関も訪れました。困難を抱える女性への相談、情報提供、仕事や職業訓練のあっせんなどを行い、全国にある協会は約100、フランス本土の95県全てにあります。相談の多くがDVで、年間7万~8万件あるそうです。母子家庭などへの支援は複数あり、子どもが2、3歳までの家庭への補助金、家賃補助などがありますが、それだけでは最低賃金より少ない額なので、仕事をして自立できるように援助しているとのことです。
この間、とくに問題となってきたのが離婚後の父親の養育費支払い確保です。父親のケースが多いですが、支払いを拒否したりできなかったりする場合、国の基金で立て替え払いする仕組みがあります。これまでは暴力を受けた母親などが対象でしたが、対象を拡大したといいます。
位置付け明確
―交通政策についても聞かせてください。
5日目に、「グラン・パリ・エクスプレス」の建設を進める公営企業を訪問しました。フランスは多くの鉄道がパリを起点にして延びています。パリ郊外から別の郊外に行くには、鉄道では一度パリに出なければならず、移動はほとんど自動車です。郊外に鉄道を延ばしてつなぎバス路線を整備し、公共交通の範囲を広げる、具体例が「グラン・パリ・エクスプレス」計画です。国際空港までの路線も含め、200キロ、68の駅からなる5路線(地下鉄)を15年でつくろうという計画です。貧困層が多く住む区域により多くの駅をつくり移動手段を持たない人々の交通を確保します。
この会社は建設を担当し、運営は「イル・ド・フランス・モビリティー」とよばれるパリと周辺8県から構成される事業体が入札で選定します。この事業者は、収入(既存事業)の55%がパリ市内に事業所を持つ従業員11人以上の企業が負担しています。従業員は通勤に鉄道を使うのでそのコストは負担しようという発想です。パリ中心部に行くほど負担率は高く従業員給与の2、3%ほどだと聞きました。収入源は他に県と国が18%、そして運賃収入です。日本と違い、公共交通という位置づけがはっきりしていると感じました。
―公共交通に企業も負担するわけですね。気候変動とのかかわりは?
最終日は、政府の環境移行地域統合省とパリ市当局を訪れました。
フランスでは2019年の法律で、人権に適合しだれもが移動できるようにすることが明確にされました。気候変動対策に依拠した法律もできて、例えば、鉄道で2時間半以内の距離の場合、航空機運航が禁止されるようになりました。例外はあるそうですが、航空会社も企業イメージを考慮し従っています。
パリ市で公共交通整備担当の助役とお会いしました。フランス共産党のこの分野での責任者でもあるとのお話でした。「市内の車の量を半分に減らしたい」とのことで、鉄道整備と自転車の活用を進めており、「大企業にお金を出させて交通網を整備している。大成功だ」と語っていました。市内での交通機関無料化、「例えば18歳未満の無料化だ」、などのアイデアを楽しげに語られたのが印象的です。
左翼政党とも
―濃密な懇談だったと思います。フランス左翼政党との交流は?
最大の左翼政党である「服従しないフランス」の議員たちと会いました。昨年末、東京で会ったオレリアン・サントゥール議員と再会し、エルシリア・スデ議員やマチルド・パノー議員団長とも交流しました。福島第1原発の汚染水海洋放出について、「日本国民の受け止めは」と質問されました。同党は、フランスで数少ない反原発を掲げる政党です。今度、来日を予定している議員もいて交流を続けたいと思っています。
(しんぶん赤旗2023年10月2日付より)