都予算案“経済界ファースト”色濃く都民に財政力生かさず

 東京都は1月26日、2024年度当初予算案を発表しました。一般会計の総額は8兆4530億円で、23年度より4120億円(5・1%)上回り、3年連続で過去最大を更新しました。都税収入が伸び、中でも3割近くを占める法人2税(法人都民税、法人事業税)が前年度比4・2%増加し、収入を押し上げました。
 特別会計と公営企業会計を合わせた全会計の合計は前年度より4763億円(3・0%)増の16兆5584億円で、スウェーデン(19兆円)やチェコ(14・5兆円)の国家予算と並ぶ規模です。
 長年の都民運動や日本共産党の論戦で子ども・子育て支援、教育の分野などで重要な前進はあったものの、予算全体としては都民の暮らしには冷たく、日本橋や築地市場跡地、新宿駅前など、経済界の要求に応える大型開発など「経済界ファースト」の姿勢が色濃く表れているものとなっています。予算案は2月20日開会の都議会第1回定例会で審議されます。

給食費に補助
 異常な物価高騰が続く一方、税金や社会保険料の負担増で都民の暮らしは厳しさが増すばかりです。そうした中、住民の運動や各地の日本共産党議員団の論戦が実り、昨年、23区を中心に学校給食の無償化が一気に加速しました。
 「国の責任で進めるべき」として背を向けてきた小池百合子知事も、都民の世論と運動、都議会での野党共闘の広がりを受けて一転、昨年末に負担軽減に取り組むと表明。公立学校の給食費の保護者負担を区市町村が無償化・軽減した場合、その2分の1を補助し、都立学校は無償化する経費を盛り込みました。
 都立・私立高校の授業料は、無償化の所得制限を撤廃し、実質無償化します。都立大学・高等専門学校の授業料も実質無償化(都内在住者のみ)に踏み出します。
 ゼロ歳から18歳まで一人あたり月5000円を給付(所得制限なし)する「018サポート」事業は、新年度も継続します。約200万人が対象で、8月、12月、来年4月の3回に分けて支給されます。

教員の増配置
 教員の長時間労働解消で、専科教員の増配置や、担任を補佐する支援員の全校配置などの前進がありました。
 不登校の生徒のための校内分教室の設置(教員60人の増配置)や、スクールソーシャルワーカーの機能強化、日本語指導が必要な児童生徒の支援、関係機関との連携でヤングケアラーを早期に把握し、多面的な支援につなげる事業を強化します。
 一方、公平性・公正性に欠けるとして問題となっている中学校英語スピーキングテストは継続実施し、そのための経費43億円を計上しました。

若者、女性支援
 東京の高い家賃の支払いが困難な若者やシングル女性が増える中で、就労支援策と連携して都営住宅を試行的に提供する事業が新たに盛り込まれたことは注目されます。
 性犯罪・性暴力被害に関するSNS相談、悪質なホストクラブ対策のための女性相談支援センターの体制強化、中高生政策提案ミーティングの新規事業も計上されました。
 地域の子ども達に食事や交流の場を提供する子ども食堂の開催や、配食サービスなどを通じて家庭の生活状況を把握して必要な支援につなげる取組を行う区市町村を支援する新たな事業を始めます。

施設職員家賃補助
 高齢者介護、障害者福祉の施設職員に、月1~2万円の居住支援手当を支給する予算が初めて計上されました。地域差が大きい住居費について、職員に家賃を補助する特別手当を支給する事業所を支援します。

補聴器購入補助
 補聴器購入費の補助は、これまでの包括補助事業のメニューのひとつというあいまいな位置づけから改善され、「高齢者聞こえのコミュニケーション支援事業」として、独立した補助事業になります。高齢者の難聴の早期予防は認知症の予防に効果があるとされ、加齢難聴の早期発見・早期対応(補聴器購入補助)に取り組む区市町村を支援します。

PFAS対策
 多摩地域で不安が広がる発がん性物質PFAS(有機フッ素化合物)汚染。住民や日本共産党が繰り返し求めてきた、地下水汚染の追加調査やPFOSを含む泡消火剤の交換・撤去支援の2つが新規事業として計上されました。

気候危機対策
 「地球沸騰化」と言われる時代を迎え、気候危機対策は待ったなしです。
 都は「東京ゼロエミ住宅」(温室効果ガス排出ゼロを目指す住宅)の新たな基準を設けて補助を行う新規事業「東京ゼロエミ住宅普及促進事業」や、賃貸住宅、集合住宅、都営住宅の省エネ化・再エネ導入の促進事業、区市町村の取組を支援する新規事業を新たに盛り込みました。

中小企業振興
 賃上げを含む従業員処遇改善に取り組む中小企業への支援の拡充、ものづくり等の産業人材育成支援、伝統工芸品に対する後継者育成への支援などの新規事業も貴重な前進です。
 職業能力開発センターの「しごとセンター校」も新設されます。

防災・安全
 都内全マンション実態調査が予算計上され、エレベーターへの非常用電源への補助など、マンション防災で前進があります。
 需要が増えている救急への対応として、通常救急隊を2隊、特に日中の救急需要が高い地域を選定してのデイタイム救急隊4隊を増やします。医療機関の救急車購入経費を補助する事業を新たに盛り込み、転院搬送体制の確保に取り組みます。
 一方、弾道ミサイル攻撃を前提にした地下シェルター整備に向けたモデル事業の実施の準備や、技術的調査のための経費2億円を新たに計上しました。

都予算案 巨費投入し開発推進 「国際競争力」強化の名で
 小池百合子都政は、予算編成方針で「変化する社会情勢の中で、東京・日本の輝かしい未来を切り拓くため、産業や経済、社会の構造転換に挑み、一人ひとりが輝く明るい『未来の東京』を実現する予算」と位置付けたとし、3つの観点から大胆な施策を積極的に展開するとしています。
 その一つが「国際競争力の強化」。「世界から人とモノが集まり、魅力と活力にあふれたまちづくり」を掲げ、財界・大企業の要求に応えて大手町・丸の内・有楽町地区や日本橋・八重洲地区、築地市場跡地、臨海部、品川駅周辺、新宿駅周辺など、おおよそ1200億円の巨費を投じて大型開発を推進。IR(カジノを中核とする統合型リゾート)調査費も引き続き計上しました。
 多数の樹木を伐採し、多くの都民が反対する神宮外苑地区の再開発は、都の予算は使われませんが、都の基本計画「未来の東京戦略2024」で、他の大型開発と並べて位置付けられています。
 また、「世界から人と投資を呼び込み、都市間競争に勝ち抜く」(『未来の東京』戦略)ためとして、陥没事故を起こして大問題となっている外環道などの大型道路建設、騒音や過密が問題となっている羽田空港の機能強化を進めるとしています。
 防災を口実として住民の反対を押して進める都道・特定整備路線の事業費には487億円と、住民の反対を抑えこんで用地買収を強力に促進するための「起動取得推進課」を63人で新たに立ち上げます。
 一方、能登半島地震でも家屋・建物の倒壊の深刻な被害が出ているのに、木造住宅などの耐震化予算は軒並み減額となっています。都民の生活が困窮し、都営住宅への入居希望が高まる中でも、都営住宅の新規建設は25年連続でゼロです。

コロナ対策終了 保健師は増員
 新型コロナの感染拡大を教訓に、削減された多摩地域の保健所の復活・増設や体制強化を求める都民運動が広がっています。
 新年度予算では保健所の増設は実現しなかったものの、5カ所ある都の保健所全体で保健師25人を増員。市町村との連携強化を目的に、企画調整課を再編し、市町村との連携窓口として「市町村連携課」を新設します。
 一方、第10波とも言われる新たな変異株による新型コロナウイルスの感染拡大が広がる中、コロナ対策の大半は終了となります。

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