❚ 本格着工巡り緊迫
多数の樹木を伐採し、超高層ビルを建設する神宮外苑再開発(東京都新宿区・港区)で、三井不動産など事業者が1月、外苑のイチョウ並木の生育状況調査を始めました。事業者は調査結果を都環境影響評価審議会に報告するとし、都環境局は「事業者から審議会に報告がされれば手続きを進める」としており、再開発の本格着工をめぐり緊迫した事態となっています。(東京都・川井亮)
再開発計画は、三井不動産や明治神宮、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)、伊藤忠商事が樹木約3000本を伐採し、現在の伊藤忠ビル(高さ90メートル)の倍の190メートルをはじめ185メートル、80メートルという超高層ビル3棟を建設する他、神宮球場と秩父宮ラグビー場の位置を入れ替えて新規建設するもの。都は昨年2月に再開発計画を施行認可しました。
希少植物群落壊す
現在、屋根付きの新ラグビー場を建設するため、希少なヒトツバタゴの群落が生息する「建国記念文庫の森」に白い工事用仮囲いを設置。アマチュア野球で長年使われてきた第2球場を解体しました。
再開発計画に対し、都民や専門家、著名人の批判が急速に広がっています。
音楽家の坂本龍一さんが死去(昨年3月)の直前に、小池百合子知事宛てに「目の前の経済的利益のために、先人が100年をかけて守り育ててきた貴重な神宮の樹々を犠牲にすべきではありません」と再開発の見直しを訴える手紙を出しました。
伐採中止を求めた市民団体の声明には浅田次郎(作家)、加藤登紀子(歌手)、秋吉久美子(俳優)の各氏らが名を連ねました。作家の村上春樹さん、漫画家のちばてつやさんらも再開発を批判し、サザンオールスターズは昨年9月、坂本さんの思いを受け継いだ曲「Relay(リレー)~杜(もり)の詩」を配信。
署名23万人超える
ラグビー元日本代表の平尾剛さん、スポーツジャーナリストのロバート・ホワイティングさんらスポーツ関係者も、ラグビー場と神宮球場の移転建て替えを批判しています。
米国人経営コンサルタントのロッシェル・カップさんが呼びかけた外苑再開発の中止を求めるネット署名には、23万人を超える賛同が集まっています。
ユネスコ(国連教育科学文化機関)諮問組織のイコモス(国際記念物遺跡会議)は昨年9月、異例のヘリテージ・アラート(文化遺産危機警告)を出しました。日本イコモス国内委員会はイチョウ並木の枯損やヒトツバタゴの群落の生育状況を具体的に指摘し、再開発の施行認可撤回と環境影響評価(アセスメント)の再審などを都に要請。建築・造園・都市計画・環境などの専門家有志数百人もアセスやり直しを求めています。
外苑再開発 事態緊迫 大規模開発偏重の都政
緑壊し超高層ビル ありえぬ
都は都民や専門家らの批判に一切答えず、「手続きは適切に行われている」と繰り返すばかり。小池百合子知事は記者会見で再開発への批判を「ネガティブキャンペーン、プロパガンダもあった」(昨年7月)、「一方的な情報」(同9月)と非難し、昨年12月末の「東京」インタビューでは再開発に「誤りや問題があるというものではない」と居直りました。
専門家も「ずさん」
一方で都は昨年9月、都市整備、環境両局長の連名で事業者に「新ラグビー場敷地の既存樹木の伐採に着手する前に、樹木の保全に関する具体的な見直し案をお示しください」と要請しました。
これに対し、建築・造園・都市計画・環境などの専門家有志は今年1月16日、「事業者の環境影響評価書のずさんさ、審議会の審議の不十分さを都自身、認めたことになる」と指摘しました。
議会で共産党追及
都は神宮外苑再開発で、▽本来は木造住宅密集地域や工場跡地の再開発を想定した「再開発等促進区を定める地区計画」▽都市計画公園区域の一部を「緑地等」にすることと引き換えに都市計画公園区域を削る「公園まちづくり制度」―などの手法を使い、都市計画公園区域である外苑地区に超高層ビルの建設を可能にしました。
都議会で日本共産党都議団は、再開発計画の当初から一貫して問題点を告発し、再開発中止を求めてきました。
昨年11月の都議会各会計決算特別委員会で原田あきら都議は、伐採される「建国記念文庫の森」の残り部分を公園まちづくり制度の「新たに確保した緑地等」とする事業者の申請を都が容認した事実を告発。
12月都議会の代表質問では、外苑地区の地権者でもない三井不動産が地区計画策定前から再開発に加わっている事実を指摘。「東京の都市計画がデベロッパー主導で操られていたかもしれない大問題だ」と追及し、再開発中止を迫りました。
外苑再開発の見直しを求める世論が広がる中、国会では超党派の「神宮外苑の自然と歴史・文化を守る国会議員連盟」が結成。都議会でも昨年10月、「神宮外苑再開発をとめ、自然と歴史・文化を守る都議会議員連盟」が設立され、約3分の1に当たる6会派41人が名を連ねています。
知事選で問われる
都は1月に発表した長期計画「『未来の東京』戦略」で、財界・大企業の要求に応え、大手町・丸の内・有楽町地区や築地市場跡地、臨海部、品川駅周辺、新宿駅周辺などを、世界から人と物を集める拠点として位置付け、神宮外苑もこれらと並ぶ拠点と明記しました。
小池知事は昨年12月都議会の所信表明で、大規模開発で「緑が新たに生まれる」としましたが、代表質問で原田都議は再開発後に排出される二酸化炭素(CO2)の吸収に必要な杉林の面積がはるかに広大になると指摘。「再開発するほど緑が増えるという印象操作は、見せかけの環境配慮だ」と批判しました。
1月24日に開かれた都民集会「どうする東京 変えよう都政!2024キックオフ」では、外苑再開発の再考を願う専門家有志の糸長浩司・元日本大学教授が「希少な緑を壊して超高層ビルを建てるなどあり得ない計画です。世界的には既存の建築をいかに有効に長く使うか、緑を保全しながらの都市計画が潮流です」と訴えました。
大規模開発偏重の都政のあり方は、6月の都知事選でも鋭く問われます。
(しんぶん赤旗2024年2月11日付より)