東京都教育委員会が先月打ち出した、都立高校の夜間定時制7校を廃止する方針に、反対の声が広がっています。2028年度に廃止とされた小山台高校(品川区)の「定時制の廃校に反対する会」代表で、定時制で35年間、教員を勤めてきた多賀哲弥さん(78)に存続への思いを聞きました。
小山台・反対する会多賀哲弥代表に聞く
多様性のある場
都教委が困難を抱える生徒の受け入れ環境の充実を言うなら、夜間定時制こそ充実させるべきです。定時制は戦後、経済的に困難な子どもたちが働きながら学ぶ“苦学生”のために必要とされました。その後、集団就職の時代には地方から上京してきた子どもたちが大勢入学してきました。子どもの数が増えるに伴い都立高校が不足し、全日制に不合格の子どもたちの受け皿にもなりました。
高度成長期を経て荒れる子どもたちが問題となり、非行で全日制を退学になった生徒が入学してくる時代もありました。さらに時代が進むと、不登校や障害のある子どもたちが入学してくるようになりました。今は、それらに加えて外国にルーツを持つ生徒や外国籍、日本語が話せない子どもたちが通っています。最も多様性のある学びの場となっているのです。
定時制は、その時代、時代に全日制に入れなかったりなじめなかった子どもたちに必要とされてきました。日本社会がそうした子どもたちに、十分なケアができる社会にならない限り、夜間定時制は必要です。
努力せず減らす都教委は無責任
都教委は廃止理由として「極端な小規模化により学習環境に課題などが生じている一部の夜間定時制課程を募集停止とし、生徒を適切な環境で受け入れ」(サポートプラン=案=)などと言っています。
定時制は夜に通学するので、生徒は通学時間が短い学校にしか通えません。定時制を減らすと近隣から通っていた子どもたちは、通学に時間のかかる他の学校には行かなくなってしまう。定時制を減らせば減らすほど生徒は減るのです。
私が現役教師の最後のころに調べた、定時制が鹿児島市に一校しかなかった鹿児島県では、生徒がとても少なかった。周辺の子どもしか通えないからです。結果、通信制の生徒が増えるということになっていました。
東京都ではかつて定時制は最高108校ありました。それがすでに4割を切っている。地域バランスも考えずに削減してきたので、ゼロの区が増えています。それなのにまともな議論もしないで、新たに7校も廃止しようとしている。実行されたなら5校あった台東区はゼロ、板橋区もゼロになります。
小山台高校は武蔵小山駅(東急目黒線)を降りたら目の前にあり、便利さで言えば都内でトップクラスです。そんな学校の定時制をなくすなど、子どもたちのことをまったく考えていない。理解できません。
以前、都教委は山手線に定時制募集のポスターを掲示していたこともありました。各学校には募集対策費を出して学校でポスターを作ったり、看板を立てたりもしていました。学校の設置者として生徒を集める努力をしていたのです。そうした努力もしないで「生徒が減ったからなくします」というのは、あまりに無責任です。
署名の協力を呼びかけ
「小山台高校定時制の廃校に反対する会」など3団体は、募集停止計画の撤回を求めるオンライン署名(QRコード)に取り組んでいます。
また10月5日(午後2時~)に「7校の夜間定時制の存続を求める緊急集会」を豊島区のラパスホール(JR大塚駅南口から徒歩5分)で開催します。
都教委の定時制廃止計画
東京都教育委員会は8月22日に発表した「チャレンジサポートプラン(案)」の中で、「困難を抱える生徒の受け入れ環境の充実」のためとし、て、立川高校夜間定時制(立川市)は27年度末で廃止。他の夜間定時制も26年度に生徒募集を停止し、28年度末で廃止するとしています(表)。