多数の樹木を伐採する神宮外苑再開発(新宿、港区)で三井不動産など事業者の計画「見直し」案を東京都環境影響評価(アセスメント)審議会が追認したことに対し、ユネスコ(国連教育科学文化機関)諮問組織イコモスの日本国内委員会は10月24日、都庁で記者会見しました。科学的検証・評価や十分な資料が提示されず、「審議が公明正大に尽くされなかった」と批判し、小池百合子知事に対し都条例に基づくアセス手続きの再審議を強く求めました。
同審議会を前に日本イコモスは、事業者と施行認可した都に対し、科学的検証や民主的手続きなど真摯な対応を要望。日本共産党都議団も「都民や専門家の理解が得られていない『見直し』案に基づく申請を、認可すべきではない」と、小池百合子知事に申し入れていました。
会見で石川幹子理事は「重大なことが生じている。このまま何もなかったかのように進んでいいのか」と表明。国際イコモスが発出した「ヘリテージ・アラート」や日弁連会長声明、国連人権理事会が発出した「パブリックな協議の不充分さに対する深刻な懸念」などを挙げ、民主的手続きを軽視してきた都に対し、要請を重く受け止めるよう求めました。
石川氏は外苑のシンボル4列のイチョウ並木について、イコモスが22年12月に衰退の事実を公表していたのに事業者は認めず、健全との環境影響評価書を提出し審議会も受諾したのに、今回初めて衰退の事実を認めたと指摘。「昨年1月提出のアセス評価書が虚偽申請だったことを意味するもので、審議会が不問に付したのは重大だ」と強調。計画が都アセス条例63条の「環境に著しい影響を及ぼす恐れがある」場合に該当するとして、再審議を強く求めました。
石川氏は▽イチョウ並木の衰退に対する温暖化の影響▽新野球場の地下杭敷設による水循環の遮断による影響▽緑地の維持にかかわる日影▽芝生広場への本移植の図面に基づく説明▽同広場の樹木伐採の根拠―など、生物・生態系にかかわる問題で数々の評価の欠落や科学的資料の未提出があると述べました。
さらに事業者が雇用する樹木医が困難としているラグビー場前のイチョウ並木2列18本の移植については、全く報告されておらず、野球場の新設に伴う文化的景観の破壊に対する環境影響評価は行われていないとし、審議の必要性を重ねて強調しました。
追認で伐採着手
事業者の「見直し」案は、昨年9月に都が「樹木保全の具体策」を示すよう要請したのを受けたもの。▽移転建て替えする新野球場と4列のイチョウ並木との距離を当初計画8㍍から18㍍に広げる▽新ラグビー場の高さを55㍍から48㍍に下げる▽3㍍以上の高木伐採本数を124本減らし619本にする―としました。一方、希少なヒトツバタゴなどが生息する「建国記念文庫の森」を壊すなど、超高層ビルと大規模施設の建て替えで樹木と環境を犠牲にする内容は変わっていません。
審議会の総会では事業者側が「見直し」案を説明し、「既存樹木の保全に配慮している」と主張。都環境局は「今回の変更が環境に著しい影響を及ぼすとは認められない」と追認。これを受けて事業者は、10月28日から伐採を始めました。
市民が見直し要望
神宮外苑の再開発で10月28日から樹木伐採を開始するのを受け、市民有志でつくる「樹木伐採に反対する会」は同日、「神宮外苑の歴史と文化、そして豊かな緑を未来につなぐための要望書」を、三井不動産など4つの事業者に提出し、伐採の見直しを求めました。
要望書は「日本イコモスや市民が望む、本来あるべき議論は未だなされていない」と強調しています。この日までに建築家や環境活動家、議員など約70人が賛同しています。
神宮外苑再開発で新宿区の2度にわたる伐採許可の取り消しを求めて提訴した、原告団の大澤暁団長は10月27日、事業者の伐採強行に抗議し、即時中止を求める声明を出しました。
地裁審理で「事業者の違法な申請、新宿区による杜撰(ずさん)極まりない許可プロセスが次々と明るみに出ている」とし、「許可が違法であることは明らかだ」と強調しています。