健康保険証として利用登録されたマイナンバーカード「マイナ保険証」などで患者の保険資格を確認する「オンライン(電子)資格確認」を、厚生労働省令で保険医療機関に義務付けたことは違法だとして、全国の医師と歯科医師1415人が国に対し、義務がないことの確認などを求めた訴訟で、東京地裁(岡田幸人裁判長)は11月28日、原告の請求を棄却する判決を言い渡しました。原告側は不当判決として、控訴する構えです。
政府は2022年6月、医療機関や薬局にオンライン資格確認の導入を原則義務付け、マイナ保険証の利用を促すため、関連する支援措置の見直しを明記した「骨太方針2022」を閣議決定。同年9月、健康保険法の規定に基づく厚生労働省令である「療養担当規則(保険医療機関及び保険医療養担当規則)」を一部改正し、翌23年4月から義務化が決まりました。
これを受け原告は、法律より下位に位置付けられる省令で義務化を規定するのは、「健康保険法70条1項(療養の給付)の委任範囲を逸脱する」として、23年2月に提訴。▽オンライン資格に関する事項を委任する健康保険法の規定の有無▽改正後療養担当規則が健康保険法の委任範囲を逸脱するか否か▽義務化が原告の憲法上の権利を侵害するか否か―を主な争点として、法廷で争ってきました。
原告の主張に触れず
裁判所は同法70条1項に関し、提供される医療サービスは、医療機関が遵守すべき事項を「厚生労働省令に委任していると解すのが自然」と解釈。義務化に対応した体制整備による経済的な負担は、「事業継続を困難にするものに相当すると直ちにはいうことができない」と判断しました。
さらに判決は、義務化の目的は「公共の福祉に合致する重要なもの」、オンライン資格確認により「過誤請求ないし不正請求を防ぐことが相当程度期待し得る」など、国の主張に追従。その上で、「義務化が原告らの医療活動の自由に重大な制限を課すとまではいえない」と示しました。
判決後の記者会見で、弁護団長の喜田村洋一弁護士は、判決文25ページのうち、わずか11ページ半に示された裁判所の判断は「国の主張そのまま」であり、「それに対する我々の反論、論理や主張が通らないことについては触れていない」と批判。「お手軽判決だ」と憤り、「さらに論理と事実を積み重ね、高裁で頑張りたい」と決意を述べました。
原告団長の須田昭夫氏(東京保険医協会会長)は、マイナ保険証の導入により「病院の受付け方法が9通りに増え、作業を複雑化した。窓口でのトラブルも続発している。(政府が推進する)医療DX(デジタル技術を用いて業務を改善・効率化すること)の名に値しない」と訴え。
原告団事務局長の佐藤一樹氏(東京保険医協会理事)は、義務化により廃業を余儀なくされた医師3人の陳述書が「無視された。一つ一つが大切にされていない」と悔しさをにじませました。
その後の報告集会で、小野高広弁護士が判決内容を解説。参加者から「オンライン資格確認に対応できず、保険医療機関指定の取り消し処分が怖くて地域医療を続けることが困難だという声がある」「新規開業する医療機関は、マイナ保険証を読み取るカードリーダーを自費で購入しなければいけない」「医療機関が扱う個人情報には、非常に重い責任がある。万全なセキュリティ体制が取れる医師がどれだけいるのか」など、判決に対する質問や意見が相次ぎました。
小児科の医師は、12月2日から1歳未満の乳児は「マイナカードから顔写真がなくなることが決まった。問題は、出生届の提出に合わせ、マイナカードが申請できる特急発行が開始される。付添い人が、マイナ保険証の暗証番号を覚えているのか。小児科の外来は大変になるだろう」と危惧しました。