民主主義根付く日本へ 政治を前に進めよう

 2025年は、総選挙で生まれた政治の変化をさらに前に動かす重要な機会となる、都議選、参院選の年です。総選挙では、すべての主要政党が大学など高等教育の学費無償化、負担軽減を掲げており、実現が政治に問われています。教育社会学が専門の本田由紀さん(東大教育学部教授)と、日本共産党参院議員の吉良よし子さん(東京選挙区)が、学費無償化や教育、若者の政治参加、国会情勢などをテーマに、新春対談で語り合いました。

 吉良 2024年5月に東大の学費値上げが報道された際、本田さんが学生の皆さんとともに反対の声をあげられた姿が印象的でした。どんな思いだったのですか?
 本田 この間、様々な国立大学、私立大学で学費値上げが続いているなか、5月の始めに、学費値上げの検討が新聞報道されて、「ああ、ついに」と思いました。私自身、とても驚いたのですが、東大の学生たちがすごく早く、敏感に、力強く、この報道に反応してくれたんです。直後の東大の五月祭(学園祭)で集会をしたい、そこでまくビラに何か書いてくださいと依頼されたのが、きっかけでした。こうして動いてくれる学生がいるのが、すごくうれしくて、できることは何でもしようと協力しました。
 吉良 学生自治会が9割の学生が値上げに反対しているというアンケートを示し、さらには学生たちによる学内集会、国会での院内集会と、本当に熱い盛り上がりでした。それが、当初の発表日程を延期させるところまで追い込みましたね。
 本田 東大の当局は記者会見の日程まで考えていたのに、延期せざるを得なかった。総長対話なるものを企画したのですが、オンラインでしかも一人当たりの発言時間に制限をかけたもので、火に油を注ぎました。
 結局、9月に学生たちが夏休み中で、運動が下火にならざるを得なかった中で、ついに値上げが強行されてしまいました。

負担構造のゆがみが
 吉良 対話もまともにやらないし、夏休みの期間中をねらって強行する。本当に腹立たしいです。
 私も国会で、東大の学費値上げが報道された直後の6月に、大急ぎで質問で取り上げました。文科相の答弁は、東大が「学生との対話など適切に対応がなされると期待している」と、まったく無責任なものでした。
 本田 他人事(ひとごと)感が本当に強い。他人事感という点でいえば、東大の執行部もそうです。金銭的にギリギリで進学を迷っている受験生たちには、人生を変えるぐらいの重大事なのに、まったく思いがいたらない。
 その理由は、総じていえば、国会議員であれ、東大の執行部であれ、全員ではないにしても、もともと裕福な恵まれた家庭に生まれ、その環境の利益を何の疑問ももたず享受してきた人たちが多いからです。東大執行部は、「たかが10万円」で、こんなに反対が広がるとは、思いもよらなかったのでしょう。
 吉良 他人事感という点でいえば、政府の他人事感も、許せないものです。なぜこの間、多くの国立大学で値上げが続いてきたかというと、背景にあるのは、2004年に国立大学が独立行政法人化されて以降、政府が20年間で1600億円もの運営費交付金を削ってきたからです。それに何の責任も感じず、学費値上げは各大学が決めること、という立場です。
 本田 おっしゃる通りです。学費問題の背景にあるのは、日本における高等教育費の負担構造そのもののゆがみです。
 吉良 11月の総選挙では、すべての主要政党が、大学の学費の無償化や、負担軽減を政策に掲げました。だったら、現在のような東大をはじめとする学費値上げなど許してはいけないでしょう、ということで、全国の大学が学費値上げを止めるための助成予算を設けるよう、総選挙直後に文科省に申し入れました。
 本田 すごくうれしかったし、頼もしかったです。こういう具体的な行動が必要だと思って拝見していました。それにしても、あれだけ多くの政党が選挙では、学費の無償化や軽減を言っていたのに、その後は沈黙してしまっていますね。
 吉良 石破首相も、自民党総裁選の政策では国立大学無償化を書いていたのに、臨時国会での所信表明演説では無償化について一言もありませんでした。

受益論が悪循環に
 吉良 学費値上げの議論で必ず出るのは、学問の受益者は学生だから、学生が負担すべきだという議論です。
 本田 ヨーロッパなどでは、学費の安い国もたくさんあります。そうすると、学生たちは自分が大学に通えているのは、人々が税金で育ててくれたんだという意識を持つ。それで得た成果は、社会に還元しようとする好循環が生まれます。
 日本のように、受益者負担論でいくと、自分が大学を出て得た高い地位や高い収入は、自分が負担して得た利益だから占有しよう、となって、エゴイズムの再生産につながります。学費負担の構造自体が、一種のカリキュラムになっています。
 吉良 面白い視点ですね。24年の夏に日本共産党の志位和夫議長がヨーロッパを歴訪した際、フランスで長く学費が無償になっているのは、どういう考えからなのか、尋ねる機会があったそうです。フランスで最初に学費が無償になったのは1880年で、共和制を建国したころです。共和制を支えるには、知識や、政府への批判力をしっかり持った市民が必要になる。だから、教育は政府が公的に負担するという考え方が生まれたという話でした。
 民主主義を名乗る国であれば、その土台をつくるためにも、教育無償化、学費無償化は当然進めなければならない。学ぶ権利をしっかり据えて議論を進めていきたいと思います。 

教育 学校の息苦しさ変えるために
 ―教育の分野で、この間、吉良さんが取り組んできたテーマの一つが理不尽な校則問題ですね。
 吉良 最初に取り上げたのが、大阪府立高校で、生まれつき茶髪の女子生徒が、黒への髪染めを強要されて、髪の毛も頭皮もボロボロになって、登校できなくなった問題です。それ以来、人権侵害につながるような校則はあってはならない、子どもたちの声を聴いて変えていかなければと繰り返し取り上げてきました。
 本田 私もとても関心があるテーマで、繰り返し取り上げてくださっていることがうれしいです。
 私が書いた『教育は何を評価してきたのか』(2020年、岩波新書)では、子どもたちを成績などで序列化していく「垂直的序列化」と、校則をはじめ恣意的な枠を設けて、はみ出ることを許さず子どもたちを押し込めていく「水平的画一化」が、学校に充満していることを論じました。
 2006年に教育基本法が変えられてしまったもと、「特別の教科 道徳」をはじめ、子どもたちにこまごまとした望ましい人間像を求める動きが強まっています。
 吉良 お辞儀の角度や、発言する時の立ち方まで、ルール化する。
 本田 いわゆる「学校スタンダード」ですね。少人数学級がいまだに実現しない日本の学校においては、教員も「これがルールだから」と子どもたちを押し込めて秩序を保つ方が、「効率的」と感じてしまう部分があります。さらに、安倍元首相の周辺にいたような保守層が、彼らにとって望ましい学校像や子ども像、家庭のあり方を教育現場に押し付けてきました。
 学校現場に息苦しさが広がり、ここ数年で不登校、いじめ、自殺が、驚くほど急増しています。
 吉良 子どもたちの息苦しさが、本当に深刻です。国会で質疑していて、強く感じるのは、なぜこれだけ不登校などが急増しているのか、分析がまったくないことです。学校がなぜ、子どもたちにとって、苦しい、行きたくない場所になっているのか、分析することなく、コロナ禍の影響や、親子の気持ちの問題にされてしまっています。

声上げ変えた経験
 吉良 その一方、校則の問題でいうと、質疑を重ねるなかで、成果も勝ち取ってきました。人権人格を否定するような校則は望ましくないとの答弁が出され、文科省も通知を出して、校則を絶えず積極的に見直し、見直す時には保護者や児童生徒の意見も聞くのが望ましいと書きました。
 本田 確かに、そういう動きは、吉良さんが実現してくれたんですよね。
 吉良 頑張ってきたんです(笑)。一つひとつ息苦しさの原因を突破して、学校に民主主義を取り戻すことが大切です。
 若い世代の働き方の問題もずっと取り上げてきたんですが、苦しい労働を強いられていても、多くの若者が声を上げることをあきらめてしまう現実もあります。声を上げても意味がないと思わされてしまっている。学校で、この校則はおかしいと声をあげて、みんなで変えた、そんな経験が1回でもできたら、自分たちは政治や社会も変えられるんだという実感になると思います。民主主義が根付いた学校にしていくためにも、校則問題は大切だと感じています。

政治参加 参加の場と形をさらに広げたい

意見はわがままと
 吉良 子どもたちの意見表明権をめぐって、先日、国会で取り上げて、本当にびっくりしたんですが、文科省、政府の見解は、校則は子どもの個人の問題ではないから、意見表明権の対象ではないというものなんですね。
 本田 本当ですか? なんだそれは、という感じですね。
 吉良 学校のカリキュラムなどと同列という立場なんです。校則は、髪の色とか、服装とか、まさに個人の問題です。
 子どもの権利条約に基づいて、日本でも2022年に「こども基本法」ができています。その精神に照らして、この見解を改めるべきだと求めたのですが、拒否されました。さもありなんで、こども基本法をめぐる審議の中でも、子どもの権利について、政府側は「なんでもかんでも、子どもの意見、わがままで全部聞いてそれを受け止めろということではない」と答弁しています。
 本田 子どもだけでなく、女性や、例えば生活が苦しい人が何か言っても、わがままとか、勝手なことを言っているという一言でつぶしてしまう。意見を言うのは「わがまま」という議論は、基本的人権がおろそかにされている日本の、底流に流れるものですね。
 吉良 子どもの言うとおりにできなくても、応答責任はありますよね。子どもたちの声なき声も含めて、きちんと聞いて、どうするのか真剣に話し合う。それこそが意見表明権です。

直接の働きかけが
 ―意見表明権という点では、若い世代の政治参加について、本田さんはさまざまな発信をされています。
 本田 先日、ある論考で引用した調査結果があります。1970年代から長期にわたって、日本人の政治参加に対する意識の推移をグラフにしたものです。若い世代で興味深かったのは、一番望ましい政治行動のあり方として、選挙で投票というのはグーッと減ってきていますが、代わりに大きく増えているのが、何か問題が起こったときにその都度、政治家に働きかけ、問題の解決を考えていくというものです。
 吉良 面白いですね。
 本田 若い世代からすると、選挙は数年に一回しかないし、投票したとしても各政治家は政党のなかに組み込まれていて、自分が託したものを実現してくれるかは分からない。政党を通じた間接民主主義は、まどろっこしい、もっと直接的に信頼できる政治家や政党に働きかけたいという感覚が広がっているのかもしれません。そうだとしたら、政治家には、そういう気持ちをぜひ汲み上げてほしいと思うんです。
 なぜかというと、SNSなどのツールを使って、デマだろうが嘘だろうが、とにかく分かりやすく取り上げて、生活が苦しいとか、余裕がないという人たちの気持ちを引きつけてしまう、悪しきポピュリズムのような人たちが、急速に広がっているからです。

投票以外の場でも
 吉良 そこは本当に課題です。責任をもって、財源の裏付けや、政策の全体像を示さないといけない。同時に、まどろっこしい説明では、伝わらない。悩ましいし、さまざまな試みもしていきたいです。
 本田 生活が苦しくても、「社会保障などに頼るのではなく、自分で稼げ」という自己責任論を降り注がれ、それを内面化している人たちが、社会に広がっています。
 私自身、悩ましいのは、ジェンダー平等だとか、公平といった理念を後回しにするつもりはまったくないけれども、そうした人たちにとっては、政治的に正しい理念であっても、どこか遠くにある「きれいごと」として、むしろ嫌悪の対象となるような土壌があります。私にも答えがないのですが、政治家の皆さんには、そういう人たちが、どんな思いで生きているのか、突き放さず汲み取って欲しい。ぜひお願いしたいことです。
 吉良 あきらめず、どう届けていくのか、やっていきたいと思います。政治に直接、声を上げていきたいという若者たちの姿は、私自身も実感します。気候危機とか、さまざまなテーマで声を上げる若い人たちを、政府の審議会や、政策づくりの場に参加させるべきだということも求めてきました。投票にとどまらない若者の政治参加の場を、広げていきたいです。
 本田 よろしくお願いします。

国会 力関係の変化、参院でも実現を
 ―開会中(対談時)の臨時国会の様子を吉良さんの方からお願いします。
 吉良 総選挙で与党が過半数割れしたもとで、非常に面白い国会です。
 私が初当選して最初の国会が、2013年の秘密保護法が押し通された臨時国会でした。数の力で深夜国会をやってでも押し通す、そういう国会運営を12年間、見てきたので、どんな法案も予算案も、与党だけでは押し通せないこと自体が、隔世の感があります。
 本田 強行採決なんて、本来はやるべきではないのに、やり続けてきたわけですよね。
 吉良 さらに、焦点となっている選択的夫婦別姓を審議する法務委員会の委員長を、野党が取りました。野党が共同して法案を提出しても、委員会で議論されない状況が続いてきた。それが変わり得る力関係が生まれています。私も一当事者として、ぜひ実現したい。
 本田 お願いします。「待機組」がたくさんいます。ずっとイライラ、ハラハラしてきました。

声をまっすぐ届け
 ―2025年は都議選、参院選の年になります。
 吉良 衆院だけでなく、参院でも数の力関係を変えていく、そして、私たちとしてはぜひ日本共産党の躍進を勝ち取りたいし、私自身も東京選挙区での3期目への挑戦です。
 本田 吉良さんも、あるいは、山添拓さんも含めて、共産党には、私が思っていることを、その通りに言ってくださる、そういう議員さんがたくさんいるので、いつもありがたいと思っています。都議選、参院選でお忙しいでしょうが、ぜひお体を大事にされて、今日、話してくださったような政策の実現に取り組んでほしいと思います。
 吉良 ありがとうございます。教育の問題もそうですし、子どもたち、若い人たちなど、なかなか政治に届きにくい、切り捨てられてしまいがちな声が大切にされる政治の実現のために、12年間、頑張ってきました。一人ひとりの声をまっすぐ政治に届けて、実現できる、その議席を東京で守り抜くために、頑張ります。

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